“数学界のモーツァルト”が最先端のAIを「凡庸ながら、まったく無能なわけでもない」大学院生になぞらえた理由
人工知能(AI)は学問の世界にどう貢献していくのだろうか。存命する世界一の数学者と目されているテレンス・タオに、知られざる数学とAIの未来について、米誌「アトランティック」が聞く。 【画像】20世紀の偉大な数学者エルデシュと問題を解く10歳のテレンス 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の数学教授テレンス・タオは、実在の超知性だ。「数学界のモーツァルト」と呼ばれることもあるタオは、存命する世界一の数学者として広く認められている。その学績により、数学界のノーベル賞に相当する賞も含めて数多くの賞を受けている。 人工知能(AI)はいまのところ、タオの足元にも及ばない。だが、さまざまなテック企業が、その領域までたどり着こうと奮闘してはいる。 近ごろ注目を集めているAIだが、あの全能なるChatGPTですら、数学的推論を処理するようには構築されていない。むしろAIが特化しているのは、言語だ。 こうしたAIのプログラムに基本的な問いに答えるよう指示すると、理解したり、方程式を導いたり、証明を構築したりはしない。その代わり、どういう語順になりそうかに基づいて答えを提示するのだ。 たとえば、初代ChatGPTは足し算やかけ算ができないが、大量の代数の例を見てきたので、x+2=4を解ける。「x+2=4の方程式を解くには、両辺から2を引く……」といった具合になる。 だがいま「オープンAI」は、「推論モデル」という新製品を大っぴらに売り出している。これらは「o1」シリーズと総称されるもので、「人と同じように」問題を解決し、数学的・科学的な課題や問いに取り組む能力がある。 こうしたモデルが上手くいけば、タオたち数学者がしている、時間のかかる、孤独な仕事に大変化をもたらしうるのだ。 タオがオンラインの投稿でo1を、「凡庸ながら、まったく無能なわけでもない」大学院生になぞらえたのを読んだ私は、AIのポテンシャルをめぐるタオの見解をもっと知りたくなった。 Zoomでの取材に応じたタオは、これまで不可能だった、AIを使ったある種の「産業規模の数学」について説明してくれた。AIがともかく近い未来に、それ自体で創造的な協力者になるというよりは、数学者たちの仮説や方法の潤滑油になるだろうと──。 未知の領域を切り開いてくれるかもしれないこの新手の数学でも、人間が中核をなすことに変わりはない。ただし、人間と機械はとても異なる強みをそれぞれ持ち、競い合うよりは、補い合うものと考えられるべきなのだ。