政治家の“公約違反”罰則ない理由 「手のひら返し」「うそつき」有権者から批判も…背景に“憲法上の要請”【衆院選】
公約違反に「罰則」を設けた場合の懸念
これまでみてきたとおり、公約違反は制裁や罰則になじまないとのことだが、仮に、この罰則を「公約違反をした場合には失職をする」という内容にした場合、どのようなことが起きるだろうか。 「そのような場合、当選する見込みのある人は、(罰則のない『全国民の代表』よりも)選挙区の代表であることを最重要視するあまりに、選挙においては各選挙区で利益誘導を主張するようになります。そして、当選後には利益誘導を巡る争いになることが目に見えます。 それを調整し決定する方策として、同じ政党内においても派閥活動が活発になるとともに、各省庁を擁護する族議員がむしろ必要となるとも考えられます。 一方、各政党ごとの公約であれば、全国共通であり全国民を対象するものであることから、ある議員がその公約に違反した場合に罰則(としての失職)があるとすると、どうなるでしょうか。 この場合、選出された個々の議員よりも政党の公約、つまり『党議拘束』的な発想が極めて強力となってしまい、党の方針に反した議員を『公約違反だ』と糾弾し失職させることができるようにもなります。憲法上の位置づけがなされていない『政党』が憲法上の規定のある国会議員よりも上位の存在となってしまうことから、適切でありません。 考え方としては、選挙区選出議員は各選挙区のことを最優先に考え、比例区選出議員は全国または広い地域での利益代表となる、という役割分担もあり得ますが、“狭く強い利益”と“薄く広い利益”との間にうまく調整がつくとも思えません。 以上は一面的な懸念かもしれませんが、公約に罰則を付すことで順守を強制することは、むしろ弊害の方が大きいようにも思えてしまいます。 間接民主制では、投票によって有権者から選ばれた政治家が政治を行っています。そうである以上、有権者の1票は『基本的に公約を守ってね』と託されるものであり、それに反する場合は、前述のように『説明責任』が求められ、次の選挙の際の参考にされることになります。 そしてこれが、『国会議員は全国民の代表である』という憲法上の要請と、有権者が抱えているフラストレーションの最大公約数なのだろうと思います」(三葛弁護士)
弁護士JP編集部