【ネクライトーキー インタビュー】自分をどんどん更新していかないと音楽をやってはいけない
最高に濃厚かつバラエティーにも富みまくったアルバムがついにリリース! 音楽への飽くなき探究心とあふれんばかりの愛情が詰め込まれた今作は“TORCH”という名のとおり、聴いた人の心をそっと照らす希望の灯火となるだろう。「bloom」のバイラルヒットにより海外からの注目も高まるネクライトーキーの5人に、新作について語ってもらった。 ネクライトーキー インタビューのその他の写真
海外のアニメなのに日本語の歌詞本当に音楽に国境はないんだなって
──2年9カ月振りのフルアルバムとなりますが、これだけインターバルが空いたのは何か理由があったのでしょうか? 朝日:単純に曲を作ることや作った曲に対して、しっかり悩む時間が欲しかったんです。もちろんその間もずっと制作はしていたんですけど、例えばアレンジにしても今ってどんどん自由度が広がっているし、世の中には面白い楽曲がたくさんあって。“その中にこの5人でバンドとして分け入っていくにはどうしたらいいのか?”っていう部分で悩んだりもしていたんですよね。時間はかかりましたけど、しっかりと悩んだかいがあったと思えるアルバムができました。 藤田:朝日さんは前から腰を据えてじっくりと考える時間が欲しいと言っていたんです。ネクライトーキーだけじゃない作曲仕事もあるし、『FREAK』(2021年5月発表のアルバム)までは本当にスケジュールが詰まっていて、側から見ていても大変そうだった。そういう意味でも今回はちゃんと余裕を持って制作ができたからこそ良かったと思いますね。 ──でも、アルバムとしてはひさびさですが、リリース自体はコンスタントにされていましたよね。それも含めて、いいペースで制作は進められていたということでしょうか? もっさ:リリースを重ねてはいましたけど、軸はこのアルバムにずっとあった気がします。アルバムの制作を真ん中に置きつつ、その時々で“セルフカバーアルバムやEPを出すか”とをいう決断をしたりして。アルバムをメインにしながらずっと動いていた感じですね。 ──しかも、昨年はNetflixの海外アニメ『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』のOPテーマとして書き下ろされた配信シングル「bloom」(2023年11月発表)がアメリカや台湾などでもバイラルヒットを記録されました。その快挙もバンドのムードにかなり作用したのでは? 朝日:どうだった? 藤田:私は“よっしゃ!”と思ったよ。 中村:私も。これで海外でもライヴができるんじゃないかって。 もっさ:私は“よっしゃ!”よりも“えっ? 聴いてくれるんだ!?”っていう驚きのほうが大きかったです。“海外のアニメなのに日本語の歌詞が流れていて大丈夫かな?”ってちょっと思っていたので。それを普通に受け入れてくれている世界の人たちに対してすごくありがたいって思いましたし、びっくりしました。もともと、「北上のススメ」(2020年発表のアルバム『ZOO!!』収録曲)とかも海外で聴かれてはいたんですけど、「bloom」で本当に音楽に国境ってないんだと思いました。 朝日:そうやって海外からも反応があるのは本当に嬉しいことでしたし、「bloom」ができたからこそ、今回の『TORCH』がアルバムとして開けたものになれたんじゃないかという気もします。「bloom」という曲が作れて“これならみんなも良しとしてくれるんじゃないかな?”って自分自身でも思えたので、本当に良かったなと。 ──ちなみに今回の作品に関して、メンバー間で“こういうアルバムにしよう”というような話はされたのでしょうか? タケイ:次のアルバムに向けて朝日から曲が出始めてきたぐらいから、“どういう方向にしていこうか?”みたいな話はしてたんじゃないかな? 朝日:きっちりと話した感じではないかもしれないですけど、歌を聴いていて気持ち良いものにしたいということは伝えていましたね。あと、Weezerの3枚目のアルバム『Weezer(The Green Album)』みたいな作品にしたいと思ったりして。聴きやすいものっていう意味での、なんとなくのイメージですけどね…俺たちはWeezerそのものをやりたいわけではないので。 もっさ:それこそ“開けたアルバム”っていうイメージかなと私は解釈したので、それは意識して作っていました。私はWeezerの音楽を通ってきていなかったので、ちょっと聴いてみたりもして。 ──『FREAK』の時は、朝日さんが事前に曲をガチガチに作り込むのをやめてバンドのグルーブで作られたという話でしたが、この『TORCH』はどうだったんでしょう? 朝日:『FREAK』の時は“とにかくバンドの赴くまま”みたいな。あえてそれを止めない感じがあったんですけど、今回はそこらへんもあんまり決めつけずに曲が良くなればそれでいいっていう考えのもとで、こだわりを持ちすぎずにやっていくかたちになりましたね。スタジオに入ってバンドで合わせて作る曲もあれば、それを経て俺が家に持ち帰って俺が仕上げる曲もあったりして。曲によって向いていそうな作り方をしました。 もっさ:ハイブリッド型だね(笑)。 朝日:やっぱり俺がひとりで作っちゃうとどんどん偏ってきたりもするんですよ。今回はいい感じでメンバーのテイストもワーッと渾然一体となっている感じがすごく好きですね。しかも、それがしっちゃかめっちゃかにならずにちゃんとやれたので。 ──アルバムの幕開けを飾る「ちょうぐにゃぐにゃ」はかなりストレートで、まさに“開かれたロック”と呼びたいサウンドですが、これを1曲目にするのはわりと早い段階から決まっていたのですか? 朝日:いや、そこはひと悶着ありまして(笑)。 藤田:曲順はめちゃめちゃ揉めています(笑)。特に1曲目は。 中村:基本的に曲順は曲が全部できてからカードみたいなものを作って、みんなで決め合うんです。ああだこうだと並べながら何通りかパターンを作っていって、最終的にこれになりましたね。 朝日:実はもうひとつ1曲目の候補があって、それが「ねぇ、今どんな気分?」だったんですけど。 ──えっ!? そっちになっていたかもしれないと? 藤田:そんな反応になりますよね(笑)。でも、メンバー5人中3人が「ねぇ、今どんな気分?」派だったんですよ。 ──確かに「ねぇ、今どんな気分?」が1曲目というのもインパクトがあってカッコ良いかも。 朝日:だから、めちゃくちゃ捨て難かったんですけどね。ただ、アルバムのタイトルを考えた時に候補が“TORCH”と“JOKE”だったんですよね。これは1曲目によってタイトルが変わると思っていたので、そこでも悩みに悩んでいたんです。でも、「石ころの気持ち」を最後にしたい気持ちが強くあったので、そう考えるとアルバムタイトルは“TORCH”にしたくて。となると、1曲目は「ちょうぐにゃぐにゃ」かなって。それでメンバーには“ごめん! 俺のわがままで申し訳ないけど「ちょうぐにゃぐにゃ」を1曲目にさせてほしい”と伝えて。結果的に「ちょうぐにゃぐにゃ」という朝のような曲で始まって、「石ころの気持ち」という真夜中から夜が明けていくような曲で終わる、朝から夜明けまで一日を一周した感じの曲順になったんですよね。最終的に収まるところに収まった感じがしています。 ──すごくいいと思います。歌詞もネクライトーキーらしい前向きさがあって、アルバムのスタートにぴったりです。 藤田:「ちょうぐにゃぐにゃ」は構成でかなり悩みましたね。おそらくプリプロの使用時間では1位(笑)。この曲は本当に大変でした。 タケイ:曲のタネ自体は最初の段階からあったんだけどね。 藤田:早くからワンコーラスはあって、いい曲だからこそ“これをどう膨らませて、どう終わらせるのか?”というのをみんなでずっと悩み続けていたんです。 中村:構成自体、変わりまくったもんね。 朝日:みんなが“この曲、いいやん!”って気に入ると、なんだかんだで肩に力が入っちゃうんです(笑)。もちろん曲を良くしたいからこその悩みなんですけど、それだけみんなが意見を言ってくれるというのは作者としてもめちゃくちゃありがたい話で。ただ、そればっかりを悩み続けていると、平気で2週間くらい、なんなら1カ月とかが過ぎていっちゃうから(笑)。なので、全員の話を聞いた上で最終的には曲を作った人間が責任持ってかたちにしようと半ば開き直って俺が仕上げました。 タケイ:タネはあったけど、なかなか完成まで辿り着かなかったという曲ということでは、4曲目の「悪態なんかついちまうぜ」もそうだよね。 ──それはちょっと意外かも。歌詞にも出てきますけど、この曲ってThe Beatlesの「レディ・マドンナ」のオマージュですよね? かなりノリノリで進められたんだろうなと勝手に思っていました。 タケイ:オケ自体はすぐできたんですよ。構成もできてそこからメロとかの部分で試行錯誤していたというか。 朝日:俺が途中で変えたいと言い出しちゃってね(笑)。 藤田:納得できないからって。 タケイ:とにかくめっちゃ時間はかかりました。 ──でも、その甲斐はあったでしょう? 朝日:ありましたね。この曲、ドラムの音がめちゃくちゃいいんですよ。ズッドッパーン! ズッドッパーン!って。 タケイ:うん、すごく気持ち良い。僕としては肩の力を抜いて叩いた曲ではあるので、“やったぜ!”みたいな感じではないんですけど。 朝日:コーラスも力の抜けた感じで、うますぎない感じがいいんですよ。ちょっとPavementっぽい…って、Pavementに失礼か(笑)。 タケイ:俺はPavementに失礼とか思わないよ(笑)。 ──そういうバンドですからね、ローファイな。 藤田:あと、この曲はギターソロでもっさが一緒に歌っているのもポイントです。 もっさ:ギターソロと声でハモっているんですけど、そこは私も結構お気に入り。 藤田:私、これがこの曲の構成のフックになっていると思っていて。 朝日:テンションが上がるよね。 もっさ:普通のギターソロじゃなくて、何か違うことをしたいという話をしていたんです。 朝日:ちょうどVulfpeckのライヴ映像を観ていて、ギターの方がハモりながらギターソロをやっていたんですよね。あまりにもカッコ良くて“これだ!”と。ギターとハモるっていうのはわりとよくある手法ですけど、ネクライトーキーではそんなにがっつりやっていなかったし、楽しそうだから取り入れてみたいなって。この曲の中でも一番のピークと言っていいぐらいに盛り上がるポイントだと思っています。 もっさ:でも、これは私が自由にやっていそうで、実はかなり精密に作られたハモなので(笑)。音程を外さないかというところで、結構緊張感が高いんです。 藤田:ライヴが楽しみだね! もっさ:えっ!? あっ、はい…。 全員:(爆笑)。 ──中村さんの苦労した曲は? 中村:個人的にはもっさが作詞作曲した「新島工場探検隊」と「だから、」ですね。もっさ曲って私の中では一番作るのが難しくて、毎回緊張します。 ──どういうところが難しいんでしょう? 中村:もっさが作る曲に対して、自分のどの引き出しを開けて使えばもっさのイメージに合致するのかまだ掴み切れていないんです。特に今回は「だから、」が難しかったです。鍵盤を目立たせる曲ではないけど、あんまり引っ込みすぎるとギターと被っちゃうし、どこに自分が立っていればネクライトーキーっぽい曲になるのかっていう、そのバランスを考えるのに苦労しましたね。しかも、「新島工場探検隊」のデモのほうは“キーボードはこんな感じ”っていうフレーズが入っていたんですけど、「だから、」にはそれがなくて。 もっさ:最初のデモではキーボードがアルペジオを弾いていたんですけど、それをギターで弾くことになったので、キーボードのやることがなくなっちゃったんです(苦笑)。私もそこは考えていなかったから余計に自由度が高まってしまって。 中村:たぶん、もっさ的には“とりあえず1回弾いてみて?”っていう感じなんやろうなって思いつつ(笑)。