「テレビ局は守ってくれない…」コンプラと闘う『不適切にもほどがある!』を元テレ東Pはどう見たか?
コンプライアンス度外視で話題の『不適切にもほどがある!』。テレビ東京の元プロデューサーとして局内の制約と長年闘ってきた桜美林大学芸術文化学群教授の田淵俊彦氏によると、ドラマ等でのテレビ局の自主規制は「世界的には珍しく、極めて日本的」だという。コンプライアンスに委縮していく番組制作現場の実情とは…。 【画像】阿部サダヲ『不適切にもほどがある!』ヒットも手放しで喜べない「事務所事情」 ◆〝勇気ある〟現場の姿勢にも、局の上層部や関係各所からのプレッシャーが半端ではないという事実が見え隠れする TBSのドラマ『不適切にもほどがある!』(以下、『不適切-』)が、コンプライアンスの厳しいこの時代に、しかも民放地上波で放送するとは挑戦的でおもしろいと話題になっている。私も毎回、大笑いしながら見ている。 今回、このドラマが「なぜウケているのか」ということを分析しながら、元ドラマプロデューサーという立場から私の自分の経験を踏まえて、ドラマにおいて日々、現場はどんな闘いを繰り広げているのかという実情を隠し隔てなくお伝えしていこう。 『不適切-』の初回の冒頭には「このドラマには不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、’86年当時の表現をあえて使用して放送します」という、いわゆる「お断りテロップ」が示された。 このお断りテロップは、脚本家・宮藤官九郎氏の「遊びごごろ」や「いたずらごころ」であり、同時にコンプライアンスに過敏になる風潮への風刺だと私は見ている。ここに、今回私が考察してゆくポイントが隠されている。それは、以下の2点である。 1_「適切な言葉」が招く「言葉狩り」 2_「喫煙シーン」という「タブー」 お断りテロップにあるように、これらはコンプライアンスを遵守しようとしたとき、特に〝過敏に〟ならざるを得ない点である。まず、「適切な言葉」が招く「言葉狩り」について解説する。 『不適切-』においては、「男のくせに女の腐ったみたいなヤツ」や「ねえちゃん」「この、サル!」に始まり「キンタマついてんのか!」まで放送禁止用語のオンパレードで、見ていて気持ちがよいくらいだ。 だが、この〝勇気ある〟現場の姿勢にも、局の上層部や関係各所からのプレッシャーが半端ではないという事実が見え隠れする。 そういった言葉が流れる前に、同様のお断りテロップが画面の下位置に出されるからである。本来は、作品の最初にちゃんと断っているのだから、何度も繰り返す必要はない。 作品を作っている本人のクリエイターたちからすれば、「絵(映像)を汚したくない」のでそんな文字は出したくもない。しかし、そうは許してくれないのだ。では、どこからそんな指示が出てくるのか。 「上層部や関係各所」と述べたが、テレビ局にはコンプライアンスが適切に守られているかどうか、チェックする「考査」という部署がある。 ここから「ちょっと、ヤバいです」や「避けておいてください」などと言われ、現場は「気にし過ぎじゃない?」と思いながら従っているというのが実情である。 この考査から通達される案件はほとんどが過去の事例からの引用であるため、理にかなっていることが多く、現場も納得できる。だが、考査以外のところからおりてきた案件はやっかいで、「なんで?」と首をかしげることが往々にしてあるのだ。