米大統領選に埋もれていつの間にか連立政権が崩壊したドイツの危うい近未来
時代は「妥協」を求めている
連立が崩壊してショルツ首相率いる社会民主党は少数与党になったものの、信任投票はまだ数週間先であり、ここで総選挙のプレビューを行うのは時期尚早かもしれない。 とは言え、各種の世論調査など現在の趨勢を踏まえれば、最大野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の政権奪還は確実とみられる。前者を率いるメルツ党首が次期首相に就任する可能性が高い。 ちなみに、メルツ氏はメルケル前首相と「犬猿の仲」「絶縁状態」と言われた人物だ。 メルケル路線を否定する思惑があるかどうかはともかく、メルツ党首の下でキリスト教民主同盟は(メルケル氏が強力に推進した脱原発のような)特定の電源を忌避するエネルギー政策に反対してきた。これは原発再稼働を辞さない姿勢と解釈していいだろう。 次期政権に話を戻すと、キリスト教民主・社会同盟が単独過半数を獲得するのは困難とみられており、ショルツ政権に引き続いて危うい連立が模索される状況になりそうだ。 自由民主党は今回の財政規律をめぐる政治混乱を引き起こしたイメージの悪さも影響して、議席獲得に至らないとの見方が強い。 議席の数だけで考えれば、支持率でキリスト教民主・社会同盟に続く極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)との連立が最も手っ取り早そうに見える。しかし、キリスト教民主・社会同盟はその選択肢を断固拒否する姿勢だ。 そうだとすれば、キリスト教民主・社会同盟と社会民主党による大連立を柱に、緑の党など他の政党も加わる展開が予見される。 一方で、キリスト教民主・社会同盟の陰に隠れて党勢が傾くことを恐れ、社会民主党や緑の党が連立入りを拒否する可能性もある。 緑の党に関しては、連立入りした同党がショルツ政権で環境保護思想を過剰に強く打ち出したために、自動車産業支援策やエネルギー政策が変容して国民生活が脅かされているとの見方が広がり、それが支持率低迷の要因となっている現実がある。 キリスト教民主・社会同盟からすれば、そもそも連立相手として適格かどうか議論の余地があるところだろう。 そんな中で注目度が高まっているのが、2023年に結党されたばかりの極左政党、ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)との連立という選択肢だ。 9月に実施された旧東ドイツ3州の州議会選挙では、このザーラ・ワーゲンクネヒト同盟とドイツのための選択肢が躍進し、極右政党である後者の州政府参加を阻むために、キリスト教民主同盟が極左政党である前者を連立協議に誘った経緯がある。 もっとも、親ロシア路線でウクライナ支援を否定するザーラ・ワーゲンクネヒト同盟と、キリスト教民主・社会同盟の政治姿勢は基本的に相容れない。極左政党との連立を禁止した党則との矛盾も指摘される中、両者の連立は簡単には実現しないと思われる。 あらためて、現時点で連立協議の行方について確度をもって語るのは困難だが、自動車大手フォルクスワーゲンの工場閉鎖に象徴されるように国内外の企業が活動拠点としてのドイツを敬遠する中で、安定した政府による安定したエネルギー政策がかつてないほど強く求められていることだけは間違いない。 エネルギー政策での妥協(≒原発再稼働)を筆頭に、財政政策での妥協(≒債務ブレーキの修正)や環境政策での妥協(≒電気自動車偏重の産業政策の修正)など、今後はさまざまな妥協がどうしても必要になるはずだ。 連立政権の組み合わせもまた、ある程度の妥協を時代が要請していると考えるべきではないか。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
唐鎌大輔