兵庫県知事選、斎藤前知事が当選「選挙の実相」メディアは伝える責務を 焦点が「告発文書で懲戒処分、元県民局長の素行」に変化
【ニュース裏表 安積明子】 17日投開票の兵庫県知事選は、失職して臨んだ斎藤元彦前知事が111万3911票を獲得して再選を果たした。2カ月前、兵庫県議会が斎藤氏の不信任案を全会一致で決議したことが今回の知事選につながったが、斎藤氏当選は「民意の勝利」なのだろうか。 【ひと目でわかる】兵庫県知事選を巡る主な政党の支援の構図 当初の争点は、不信任決議を受けた「斎藤氏の資質」だった。だが、焦点は徐々に「知事を告発する文書を出し、懲戒処分を受けた元西播磨県民局長の素行」に変化していった。 7月に亡くなった元局長について、「在職時、問題行為があった」と指摘する候補者もおり、波紋を呼んだ。ネット上では、斎藤氏を擁護する論調が目立ったようだ。 斎藤氏の「パワハラ疑惑」などを批判してきた新聞やテレビなどに対し、「オールドメディアは『真実』を報じない」と主張する候補者もいた。また、「斎藤氏の対抗馬である稲村和美前尼崎市長を利する報道ばかり」との指摘もあったが、本当にそうか。 県内の22の市長が14日、稲村氏を応援する「異例の声明」を出したが、多くのテレビは詳細を報じなかった。市長らの応援が公職選挙法に抵触する可能性も指摘されたが、県選管はこれを否定した。 もし、オールドメディアが「稲村推し一辺倒」なら、このニュースを繰り返し詳報したはずだが、そうはならなかった。 オールドメディアは、報道側の基準による「公正さ」を重視する立場だ。しかし、国民世論は、この姿勢を「公正」「慎重」と評価せず、むしろ「偏向」「事実の無視」と受け止めているのではないか。 選挙期間中、SNSでは各陣営への誹謗(ひぼう)中傷が飛び交い、真偽不明の情報があふれた。 わが国では、インターネットを利用した選挙運動が2013年に解禁され、選挙の様相は大きく変わった。有権者がさまざまな「情報」に触れる機会が劇的に増えたのだ。 そして、情報が衝撃的なほど波及力は大きく、拡散のスピードは速くなる。当然、悪用に厳しく目を光らせ、一つ一つの事実関係をより慎重に検証する必要があるだろう。 今月の米大統領選では、候補間の〝過激な応酬〟が注目されたが、日本も潮流は似ている。各選挙では相手陣営に乗りこみ、暴力で威迫し、警察当局が逮捕に動いたケースまで出ている。