井之脇海「カッコ悪い自分の気持ちは、シュレッダーで切り刻む」 俳優20周年を迎える今と未来
パートナーと、お互いに独立した関係を築きたい
――30代を迎える節目になると、結婚や出産に焦りを感じる人もいます。周りからの見られ方も変わりがちです。井之脇さんには将来像はありますか? 井之脇: 30代だから結婚しなければいけない、子どもを持たなければいけないとは、僕は思いません。年齢によって「こうあるべき」と周りが押し付けるのはおかしいですよね。 ただ、将来についてはあらゆる可能性を考えたいですし、あらゆる可能性に向けて備えられる世の中だとも思います。具体的に考えてはいないですが、たとえば将来子どもを持ちたいと思ったとしたら、男性にもタイムリミットはあるので、いろいろな手段を調べておきたいなとか。 今後どうしたいかと考えてみると……青写真ではありますが、素敵なパートナーと出会って、一緒にいられたらいいですね。お互いに独立した関係でいたいので、好きなことや夢中になっていることがある人に、魅力を感じます。
人生、まだ3分の1も経っていないから
――井之脇さんの世代は、社会人として7年目前後を迎える人が多く、転職などキャリアチェンジを考え出す人もいます。 井之脇: ああ、そうですよね。実は僕も、最近、友達3人から転職の話を聞きました。 ――悩んでいる人は多いですよね。9歳の頃から俳優業をされている井之脇さんは、今年20周年を迎えるベテランでもあります。仕事を一通り覚えて「このまま続けて良いのだろうか」と考えている人や、何か新しいことに挑戦したい人に向けて、メッセージをいただけますか? 井之脇: まず「何かを変えたい」と思う気持ちは大切にしたいですよね。ただ人生100年時代と言われている昨今ですから、僕らはまだ3分の1も経っていないくらいなんです。そう思うと、無理に焦らなくていいんじゃないかな。好きな仕事に挑戦したいという人も多いかもしれませんが、好きなことを仕事にするつらさもあるので、慎重に選んだほうがいい。 ――好きなことを仕事にするつらさ、とは? 井之脇: 好きだからこそ、その仕事の嫌な面を見たときにガッカリしがちだし、自分に対する理想も上がって苦しい思いをすることもある。僕は好きな映画に仕事で携わることができていますが、自分の芝居に満足したことはないし、満足できる日なんて来ないとも思うんですよ。好きだからこそ、その折り合いをつけるのが難しいことがあります。 仕事は仕事、と割り切れるような働き方を選ぶというのも、ひとつの立派な選択肢だと思いますし、「それでも好きなことに関わる働き方に挑戦したい」と思うなら、頑張ってみればいいと思う。お互いまだまだ先は長いので「何かを変えたい」と思った自分の気持ちを大切に、自分のことを信じながら、じっくり考えて選択してほしいですね。 ヘアメイク:新宮利彦 スタイリスト:坂上真一(白山事務所) ヴィンテージ腕時計 [ECW SHOTO(江口時計店)]
⚫︎井之脇海(いのわき・かい)さんのプロフィール 1995年生まれ、神奈川県出身。2008年、『トウキョウソナタ』(黒沢清監督)で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞ほか複数の賞を受賞。近年の出演作は、映画『ミュジコフィリア』、『ONODA 一万夜を越えて』、『バジーノイズ』、ドラマ『9ボーダー』『ブラック・ジャック』など。2025年放送NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演も控える。 ◼︎『ピアニストを待ちながら』 出演:井之脇海、木竜麻生、大友一生、澁谷麻美、斉藤陽一郎 監督・脚本:七里圭 製作:合同会社インディペンデントフィルム/早稲田大学国際文学館
文:塚田智恵美