なぜ"暴力反対"は間違っているのか? 思想と歴史に学ぶ「暴力」の必須教養
――そうした海外の例から、日本に暮らす私たちが学べることはなんでしょうか? 森 彼らの徹底した民主主義ですね。これは本当にすごいと思います。 例えば、ロジャヴァでは女性たちがかなり力を持っています。同地域ではあらゆる議論の場で40%以上の女性の参加が義務となっています。日本も見習うべきですよね。また、ロジャヴァでは警察が半年ごとに交代します。 半年間警察をやって、残りの半年は民衆と同じ仕事をするんですね。捕まえる側と捕まる側の立場がぐるぐる回るので、不当な警察権力を行使することが難しくなるんです。 自分が警察官として横暴に振る舞っていたら、半年後に警察官になった被害者に復讐(ふくしゅう)されるかもしれませんからね。 一方で、BLMにおいて、特にジョージ・フロイド事件以降の民衆の動きもすごいです。日本ではあまりニュースになっていませんが、横暴な警察の権力をなくしていこう!という勢いが増しています。 ――知らず知らずのうちに暴力を振るわれる現代において、私たちは暴力をどうとらえ、どう向き合えばいいのでしょうか? 森 われわれもまた、暴力をちらつかせるべきです。国家や企業などのヒエラルキー上位をビビらせることのない抵抗で喜ぶのは、ヒエラルキーの上位にほかなりません。 誰にも迷惑をかけないお行儀の良いデモでは何も変わらないことは、ここ十数年でも証明されてきました。自分たちにもヒエラルキー上位をビビらせる力があることを示していかなければ、状況が改善することはないでしょうね。 この点、諸外国ではここ十数年でどんどんラディカルな社会運動が広がっています。そこから学べることは多いと思います。 ●森 元斎(もり・もとなお)1983年生まれ、東京都出身。長崎大学教員。専門は、哲学・思想史。博士(人間科学)。中央大学文学部哲学科卒業、大阪大学大学院人間科学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、パリ第十大学研究員などを経て、2019年より現職。現代思想やアナキズムに関する思想の研究を行なっている。著書に『具体性の哲学』(以文社)、『アナキズム入門』(ちくま新書)、『国道3号線』(共和国)、『もう革命しかないもんね』(晶文社)など ■『死なないための暴力論』インターナショナル新書 1012円(税込)「暴力反対」とはよく聞くが、世の中は暴力にあふれている。国は警察という暴力装置を持ち、国民から徴税する。資本主義は労働者を搾取し、格差を生み出す。家父長制は男性優位・女性劣位のシステムを作り上げる。一方で、こうした暴力に対抗して、社会を進歩させてきたのも、また暴力である。世の中にあふれる暴力には、否定すべきものと肯定せざるをえないものがある。世界の思想・運動に学びつつ、倫理的な力のあり方を探る一冊 取材・文/中田 弦 撮影/繁延あづさ