軽快な果実味と夏らしい爽やかな吟香「尾瀬の雪どけ」龍神酒造|極上の夏酒に、出合う
■龍神伝説が伝わる古井戸 極軟水で醸すまろやかな酒 (※その他の写真は【関連画像】を参照) 【関連画像】軽快な果実味と夏らしい爽やかな吟香「尾瀬の雪どけ」龍神酒造|極上の夏酒に、出合う 今年も暑い夏がやって来る。日本酒の愛飲家にとって、夏の楽しみの一つはこの時期にしか飲めない、期間限定の“夏酒”だろう。猛暑を吹き飛ばすような、すっきり爽やかな夏酒を求めて、群馬県館林市の老舗酒蔵を訪れた。 「尾瀬の雪どけ」で知られる龍神酒造は江戸時代から続く酒蔵で、現在の蔵元・毛塚勲さんで18代目。夏の猛烈な暑さで知られる館林だが、実際は豊かな緑と水に恵まれた「水と緑の町」だ。 杜氏の堀越秀樹さんが最初に案内してくれたのは酒蔵の建物内にある、古い井戸だった。江戸時代後期、この地に龍神とともに水が湧き出て、龍神酒造ではその水を使って酒造りをしたという、龍神伝説が残っている。この井戸はかつては仕込み水として利用され、現在は水の神様を祀ってある。 現在の井戸は赤城山の伏流水を地下約150mから取水した「極軟水」。非常に柔らかで、ミネラル含有量が少なく、口当たりがまろやかな酒ができあがる。 龍神酒造では1990年代にこの極軟水を使った「尾瀬の雪どけ」を発売し、「龍神」と並ぶ看板商品となっている。あえて“尾瀬”を名に冠したのは、短い夏に生命が満ちあふれる尾瀬の美しい自然をイメージしたからにほかならない。酒蔵の背後にそびえる山々、その彼方には尾瀬国立公園が広がっている。 そんな「尾瀬の雪どけ」は季節商品に力を入れている。春の“桃色にごり”は赤色酵母を用いた鮮やかな花見酒。少し甘口で酸味も利いており、桜の色に似た色が美しい。 ■軽快な果実味と夏らしい爽やかな吟香 尾瀬の雪どけ夏らしいフルーティな香り、フレッシュでジューシーな味わい。うま味とともにキレもある。軽快な飲み口は暑い夏でも飲みやすく、爽やかな夏酒となっている。 純米大吟醸 夏吟 720ml/1798円 原料米/非公開 精米歩合/50% アルコール度数/15度 ■最高峰・純米大吟醸を生む熟練職人たちの醸造技術 そして、夏に登場するのが「尾瀬の雪どけ 純米大吟醸 夏吟」。涼やかな青色の瓶に詰められた酒はフルーティな香り、フレッシュで軽快な飲み口。飲みやすく、爽やかな夏酒となっている。 2月に始まる「夏吟」の仕込みはすでに終了していたため、搾りの真っ最中だったほかの「尾瀬の雪どけ」を試飲させてもらった。北海道産酒米「彗星」を使った純米大吟醸。 搾りたての酒は穏やかな香りで、スッキリとした味わい。米のうま味、甘みが後からじわりと感じられた。冷やして飲めばさらに美味しさが増してくるだろう。 「龍神酒造の酒の特徴はうま味、キレ、軽さ。無濾過生原酒が多いですが、アルコール度数は原酒でも16度台。夏酒は軽快にするために加水をして度数を落としているので、さらに飲みやすい酒になっています」と堀越杜氏は話す。 龍神酒造では杜氏は代々南部杜氏が務めていた。現在の堀越杜氏は、1996年に入蔵以来、龍神酒造一筋。先代の南部杜氏の酒造りをベースに独自の技を加えて製造体制を指揮している。 酒造りの大枠、酒質の設計を行うのは蔵元の毛塚勲さん。昨今の日本酒業界では蔵元杜氏が増えているが、龍神酒造では伝統的な分業方式を今も守り、蔵元と杜氏が力を合わせて酒造りを行う。 「米本来のうま味を味わえる芳醇旨口タイプをめざして酒造りを行っています。酒質は複雑さのある酒。辛さのなかにある甘み、余韻があるがキレが良いなど、背反するような2つの要素が一つの線上に存在するような酒です」 米のうま味を引き出しつつ酒らしい複雑な味わいの起伏を醸しだす酒造りが、龍神酒造の理想だ。 龍神酒造で造られる酒は純米大吟醸酒が多い。若い人や女性をターゲットにしたフルーティな日本酒には純米大吟醸が適している。 「高級酒の純米大吟醸を誰でも手が届く価格で提供する。カジュアルな純米大吟醸を造っています」 純米大吟醸は特定名称酒のうちでも最高位。米、米麹、水のみを原料として、50%以下の精米歩合の米を使用、吟醸造りの製法で造る。酒造りのすべてにおいて最高の技術を要求される。 純米大吟醸造りにはまず酒蔵の設備から整えなくてはならない。大吟醸は酒米を50%以上磨くことが条件。酒米を削って磨くことにより雑味のないすっきりときれいな味になる。そこで、龍神酒造では2010年に精米機を導入。自家精米によって、酒米を50%まで磨くことが可能になった。 ほかにもサーマルタンクを40本導入、麹室・酒母室を整備して、徹底した温度管理による酒造りを行っている。醪の搾りも最新の自動圧搾ろ過機を導入している。もちろん酒造りの技術が日本酒の最高峰・純米大吟醸のレベルに達していることも重要だ。 昔から日本酒造りで重要な作業工程は「一麹、二酛、三造り」といわれる。そのなかで麹は酒の輪郭、味を決める。麹室で蒸し米に麹菌の胞子をふりかけ、二昼夜半にわたって麹菌を育てる、最も重要な仕事だ。 ■●夏を演出する青い瓶 龍神酒造では「夏吟」など夏向けの酒には涼やかな水をイメージした青色の酒瓶を使用している。ラベルにも青い色彩を多用して夏らしさを演出。軽快で爽やかな夏酒をひんやり冷やして、ガラス製のグラスに注いて、きゅっと一杯。夏酒ならではの楽しみだ。 ■豊富なラインナップ 酒米別に味わう酒 龍神「龍神」は江戸時代からの龍神伝説にちなんで名付けられた。龍神酒造の元々の看板銘柄。酒米別にさまざまな日本酒を醸造している。 龍神 純米吟醸 生詰 1.8L/3795円 原料米/山田錦 精米歩合/50% アルコール度数/15度 ■チームワークが織りなす職人の手仕事が生む味わい 堀越杜氏によれば、大吟醸は意外にも種麹の量を少なくするという。 「酒米に振る麹菌が多いと麹菌が怠けてしまい、酒に上品さ、軽やかさがなくなります。麹菌の菌糸が米の内部まで深く食い込む麹にするためには、麹菌をハングリーにさせて、麹が米の芯まで入り込むようにします」と堀越杜氏。 室温、湿度、見た目だけでなく、匂いや手触りなど五感を駆使して麹の状態を確かめているそうだ。 日本酒造りとは、生きている麹菌相手の真剣勝負。酒母・酛は酒の香りと味わいを決める。 「若い消費者向けには発酵力よりも、香りの強さが求められます。香りが出やすい協会9号や1801酵母などを使い、フルーティな酒になるような酒母を育てています」と担当の遠藤英行さん。 醪の搾りは手間をかける槽搾りではなく、最新の「ヤブタ」機を使ってコストダウン。ただし、「カスを多く、酒は少なく」無理に搾らず良質な酒だけを商品にしている。こうして酒造りはお盆明けからGWまで3季にわたり行われる。 「酒造りの方程式は決まっています。作業工程はすべて大事。一つでもダメなところがあるといい酒はできない。一つひとつの作業をいかに妥協なく造り込むか。それには杜氏と蔵人のチームワークが必要です。長年同じメンバーなので、阿吽の呼吸でやっています」 堀越杜氏と蔵人の計6名は、1996年から28年間も顔ぶれが変わらない。酒造りに自信と愛着を持っている造り手の手仕事によって、龍神酒造の美味しい日本酒が醸しだされる。 龍神酒造では2010年から海外への輸出を始めて、現在は売り上げの20%が海外向けを占める。この夏も堀越杜氏は韓国、アメリカなどを回るそうだ。 今年の夏酒は「尾瀬の雪どけ 夏吟」をひんやり冷やして飲んで暑い夏を爽やかに過ごしたい。 龍神酒造 群馬県館林市富士見町4-35 TEL:0276-72-3711 公式HP: ※一般の方の酒蔵見学は受け付けておりません ■龍神酒造の酒を飲む ■絶品イクラ、予約が取れにくい名店「鮨おばな」 利き酒師の女将さんが選ぶ酒と名物イクラを味わう昭和43年(1968)創業、わずか数席のモダンな店内。2代目の尾花輝さんが握る寿司は館林随一。わざわざその味を求めて遠方からも客が訪れ、予約が取れにくい店としても知られる。龍神酒造の日本酒を提供し始めたきっかけについて尾花さんにうかがった。 「うちの女将が日本酒に詳しく、利き酒師の資格を持っています。女将から龍神酒造の酒を置きたいと提案されたんです」 女将さんの智子さんは、龍神酒造の酒の魅力についてこう語る。 「純米大吟醸は米を磨いているけれど、きれいすぎないで、お米の甘みを残していて、フルーツ感があり、穏やかな香りもあります」 先代の頃は町鮨の店だった。今ではおまかせコースのみの店に。 「ここは陸の孤島。うちしかないものがないと、お客さまを呼べない」と尾花さん。 鮨は江戸前の鮨が基本。鮨には酒粕が原料の赤酢を使用している。そして、この店を訪れる客の目当ては、名物イクラ。醤油漬けにしたイクラは濃厚な味わい。 「美味しい鮨はつねに自分の中にある。自分の考える理想にいかに近づくか。美味しい鮨を握りたい。ただそれだけを考えてます」 夏なら新子。6月中旬、日本で初めてコハダの新子が出る頃、過去にはキロ十万円以上する新子を使って、19枚漬で握ったことも。米を原料にしている日本酒と、鮨との相性は抜群。こだわりの名店の鮨とともに日本酒を味わいたい。 鮨おばな 群馬県館林市大手町5-1 TEL:0276-72-1604 営業時間/17:30~、19:30~の二部制(日曜、祝日は12:00~、15:00~) 定休日/月曜、不定休 文/阿部文枝 撮影/遠藤 純、渡部健五