会社に壊されない生き方(15)お金をかけずに建てる自然派の「コブハウス」
練り終わったら、土の団子を作る作業だ。土の大きなかたまりに両手を突っ込み、土をつかみ取ろうとするが、まじっていたワラの一部が元の大きなかたまりの中に残っていて取りにくい。何とか取り出した手元の土を、パン生地をこねるようにして丸めて、大きなリンゴ程度の大きさの土の団子を作った。泥遊びをしているようで、なんだか楽しい。 作りかけの壁の上面に水をまいて軟らかくしたあと、壁の前に立つ講師に、土の団子を投げて渡す。これを「コブトス」と呼ぶ。講師は土の団子を受け取ると、壁の上に載せて手でつぶす。この作業があることで、土の団子どうしがワラによってつながり、強い一枚岩の壁のようになるという。ワラは重要な役割を担っているのだ。土をつかみ取ろうとしたときのワラの頑強な抵抗力を思い出し、その説明には納得がいった。
ワークショップ参加者が、およそ30分で作った土の団子は15、6個。壁に載せ終わったあと、再び材料を運び込み、別の土の団子を作る。あまり厚く積むとくずれやすいので、1日に積み上げる壁の厚さは10~15センチ程度にとどめている。このコブハウスの完成予定は、2018年の8月。完成後は、家具の展示スペースとして活用される予定だ。 「これからも、さらにコブハウスの仕事に力を入れて、コブハウスの伝道師になりたい」と沓名さんは話す。「自分のオフィス用に、セルフビルドがしやすい平屋のコブハウスを作りたい。自給自足のアイデアをシェアできる場や、(個人事業の)折り紙教室に活用したいと考えているんです」と話す。現在、土地を探している最中なのだという。 「出世」を目指した会社員時代に比べて収入は半減したが、個人事業は楽しく、やりがいを感じており、暮らしの面でも家族や地域と関わる時間も増えた。現在も、日中の半分は契約社員として働いている。それでも「今は、自分で自分の人生をコントロールできている、という充実感があります」と沓名さん。 その表情は、涼しげで、ひょうひょうとしていて、とても出世と健康の狭間で苦悩した人物には見えなかった。 (取材・文:具志堅浩二)