会社に壊されない生き方(15)お金をかけずに建てる自然派の「コブハウス」
コブハウスの存在を知ったのは、退職後、沓名さん自身が翻訳を手がけていた「マザーアースニューズ」の記事だった。記事に導かれるように「コブハウスの巨匠」と言われるアメリカ・オレゴン州のイアント・エヴァンスさんを訪問したところ意気投合。いまのコブハウス作りにのめり込んだのだという。 「コブハウスは、住む人に合わせた家が建てられます。設計する時は現地に行き、太陽の角度を確認して木もれ陽をうまく室内に取り入れる方法を考えたり、手を伸ばす長さを調べて部屋の大きさを決めたり。そこが本当に面白い」。関わった仕事で、完成したコブハウスはまだないが、現在国内の10か所で建設計画が進んでいるという。 いったい、どんな家を建てようとしているのか? コブハウス作りのワークショップの現場を沓名さんに案内してもらうことにした。
コブハウス作りの現場へ
午前9時30分ごろ、JR中央本線藤野駅から南へ約4キロメートルほど行った神奈川県相模原市の山中にある家具販売店「ふじのリビングアート」の敷地に到着した。敷地内を歩いていくと、目に入ってきたのは、円を描くように建てられた土色の壁。作りかけのコブハウスだった。 壁をさわってみた。カチカチに乾いていて、硬い。コンクリート並みの強度があるという。表面には、壁を早く乾燥させるため、直径、深さとも1センチほどの穴がいくつも空いている。この穴は、しっくいを塗ったときに付着しやすくさせる働きもある。壁の厚さは約50センチ。コブハウス内は、この分厚い壁によって夏は涼しく、冬は暖かい。 沓名さんは「古代遺跡のようでしょう。完成すれば、内装はきれいになって現代の建物と同じような雰囲気になりますよ」と自慢げに笑った。
午前10時過ぎ、ワークショップの参加者2人が到着し、筆者も含め5人で作業が始まった。この日は、壁作りの続き。使うのは、赤土と「荒木田土」という粘土質の土、地元産の砂。4対4対1の割合で混ぜる。壁を作りはじめる前に、いくつかの材料のなかから、強度があり、コストの安い組み合わせを検討した結果、これらの材料と配合比率に決めた。材料のうち、赤土は建設現場からタダでもらってきた。 材料を混ぜたあと、水を加えて足で踏みつけながら練る。作業用のゴム靴など、汚れても構わない靴が必要だ。ほぼ均等に混ざり、粘りが出てきたら、ワラを加えてさらに練る。ワラは、畳屋からタダでもらった古い畳を分解して使っている。