北九州の怖いイメージ「変えたい」 暴力団・工藤会本部跡の「まちづくり」、物価高騰で難航…NPO法人が支援呼びかけ
北九州市にある暴力団本部事務所の跡地で予定されている福祉施設の建設が、物価高騰などの影響を受けて難航しているとして、ホームレスなどの生活困窮者を支援している民間団体が9月3日、寄付を集めるクラウドファンディングを始めた。 この団体は、北九州を拠点とする認定NPO法人「抱樸」(ほうぼく・奥田知志理事長)。特定危険指定暴力団「工藤会」の本部事務所跡地を2019年に引き受け、北九州市を「怖いまち」から「希望のまち」に変えるプロジェクトを掲げて、複合型の社会福祉施設の建設を進めている。 寄付や公益財団法人からの助成、金融機関からの融資など、公費補助なしの計約13億円で建設する予定だったが、急激な円安や物価高騰などの影響で、建設の入札は不成立になった。さらなる資金調達が不可欠となったため、クラファンでのキャンペーンをスタートさせた。 この日、東京・霞が関で開かれた記者会見で、奥田理事長は「抱樸で実施した炊き出しに並ぶ人数はコロナ禍前の約2倍で、自己責任や身内の責任では乗り越えられない現実が目の前にあります」と社会情勢の厳しさを指摘した。 そのうえで「政府が責任を果たすべきだと思いますが、一方で、新しい社会構造の道を模索し、創造していくことを具体的にみんなでやっていこうというのが今回のプロジェクトです。このまちづくりに新たに参加してくださる方にお声がけしていきたい」とうったえた。 ●「施設ではなく"まち"なんです」 抱樸が進めるプロジェクトは、福岡県警が工藤会の組織トップらを逮捕した「頂上作戦」によって、同会本部事務所が撤去されたことから始まった。 事務所跡地を取得し、人口減少や単身化、少子化、孤立・孤独の課題に対して「あるべき共生社会モデル」を提示する複合型の社会福祉施設をつくり、そこを拠点に「誰も取り残されないまち」づくりを目指すという。 奥田理事長は「工藤会が北九州市のイメージや経済に与えた(負の)影響は大きかった」と振り返り、「本部事務所を撤去して更地にするだけでは解決にならない」と跡地の引き受けを決断したという。 「跡地から何かを生み出さない限り、本当の暴力団対策にはならないと思いました」 北九州市を「怖いまち」から「希望のまち」に変えようと進める福祉施設の建設には、周辺自治体や町内会も賛同した。奥田理事長も「市民一丸となって進めているプロジェクト」と強調する。 福祉施設ではあるが、高齢者や障害者など、特定の人々だけがいるような場所ではなく、すべての人が利用したいと思えるオープンなスペースにする構想を描いている。 「救護施設も設けますが、全室個室で国の基準を大きく超える広さにします。カギの管理を個人がすることで、地域の方々も施設の中に入りやすくなります。 地域住民がデートで来られそうな、ミシュランガイドで取り上げられたシェフが運営するおしゃれなレストランも入る予定です。 この場所に来て、本当に良かったと思っていただける受け皿をつくりたい。施設ではなく"まち"なんです」 ●「ただの社会福祉事業ではない」 このプロジェクトの応援団呼びかけ人をつとめる元厚労省事務次官の村木厚子さんは「このプロジェクトが実現できたら、全国に同じような動きが広まるのでは」と期待を寄せている。 「能登半島地震の被災地で仮設住宅づくりを見たとき、コミュニティを維持するための拠点をつくる場所を設けていることに驚きました。 衣食住の支援がないと生きていけないのは当然なのですが、他人とつながることができる、何か相談できる場所を同時につくることも必要だというのが、過去の災害経験の中で得た結論ということで、仮設住宅の作り方も変わっているわけです。 振り返ってみて、では災害を受けてない地域はこのようなつくりになっているのか。今は本当に地域のつながりが薄くなっています。『衣食住プラスつながり』がある"まち"をつくる。これが今回のプロジェクトだと思ってます」(村木さん) 応援団のメンバーで、神戸女学院大名誉教授の内田樹さんも「このプロジェクトの一番大事なことは『まちづくり』だということ」と話す。 「困っている人がいるから見てられないけど、リソース(資金)はない。でも何とかなる、何とかしようというところから始まっている。 義務でやっているわけでも、使命感でやっているわけでもない。この点が福祉事業としては際立って個性的で、卓越しているところだと思います。 ただの社会福祉事業ではない。日本社会に新しい形の総合支援ネットワークを作っていく方向性を明確に示している新しいロールモデルだと思います」(内田さん) クラウドファンディングは9月3日から12月2日まで、1億円を目標金額として実施するとしている。
弁護士ドットコムニュース編集部