もっとも多忙な仏文学者、鹿島茂が選ぶ現代新書はこの3冊だ!
今年、講談社現代新書は創刊60周年を迎えました。これを記念して、これまで現代新書をお書きいただいた著者の方々に、ご自身にとって特別な現代新書を挙げていただきながら、自著についてお話を伺うインタビューシリーズ「私と現代新書」が始まります。第1回目に登場していただくのは、仏文学者の鹿島茂さんです。 【画像】000、500は名著の証? 現代新書のキリ番をふりかえってみた これまで執筆いただいた現代新書は、『デパートを発明した夫婦』(1991年)と 『悪女入門 ファム・ファタル恋愛論』(2003年)。このうち『デパートを発明した夫婦』は、今年、書き下ろしの「パリのデパート小事典」を付して、装い新たに講談社学術文庫『デパートの誕生』として刊行されました。 鹿島さんは、作家、書評家、古書蒐集家、近年ではシェア型書店のプロデューサーとしての顔を持ち、さらに今年は横綱審議会委員に就任。さまざまな顔を持つ超多忙な仏文学者、鹿島さんが挙げる特別な現代新書とは? (#1/全3回)
トッドより先に「直系家族」を理解していた名著
―― 今回、鹿島さんにとって特別な現代新書をお聞きしたところ、3冊挙げていただきました。1冊ずつ、理由とともにお聞かせください。 鹿島茂さん(以下、敬称略):ひとつは、中根千枝さんの『タテ社会の人間関係 単一社会の理論』です。 ―― 1967刊行、現在135刷、現代新書でもっとも増刷されている代表的ロングセラーです。 鹿島:この本では、日本においてタテ型の家族構造、すなわち直系家族が、単に家族だけではなく、学校とか、軍隊とか、会社とか、さまざまなところに入り込み、私たちのメンタリティや思考をしばっているということがよく証明されています。 最初に読んだときは、この本に書かれていることをそんなに深刻に受けとめなかったのです。ですが、その後エマニュエル・トッドの家族論を研究するようになって、捉え方が変わりました。というのは、トッドは中根さんの本を参照して日本の家族類型を割り出しているからです。トッドの「直系家族」という家族分類をあてはめてみると、中根さんが、「直系家族」という言葉ができる前に、この概念と構造をほぼ完ぺきに理解していたということがよくわかります。 ―― 本書で「日本の『タテ』」と表現されるものですね。 鹿島:中根さんはトッドよりずいぶん前の人ですから、トッドによる家族類型によって、中根さんのこの本は非常に正しいということがあらためてわかる。この本のおかげで、日本人は、トッド類型の「直系家族」を「なるほどその通りだ」と理解できるわけです。 ―― 本書では、日本社会のあらゆる現象が、日本社会の「単一性」に基づく根強い序列意識(「タテ」)の表れとして論理的に説明されています。たとえば、なぜ日本社会は能力のない年長者がリーダーになる「老人天国」なのか。なぜ派閥争いが生まれるのか。なぜ日本人は転職に消極的なのか。――これらは、社会の「変わりにくい部分」(「社会構造」)として分析されているとおり、現在の日本社会も、約60年前に書かれた本書そのものです。ロングセラーの所以ですね。