九谷焼に生きがい、高い評価充実感 「やっと認められた」、作家活動も
社会で生きづらさを感じていた女性が、伝統工芸の「九谷焼」にやりがいを見いだした。石川県立九谷焼技術研修所(能美市)で学ぶ高林真穂さん(27)。「できないことだらけの自分だけど、これはできると思った」。作家「趣馬留都」としても活動し、制作に打ち込む日々を送る。(共同通信=乾真規) 石川県小松市で生まれ育った。子どもの頃から忘れ物が多く、人付き合いは苦手。大学卒業後、IT企業に就職したがなじめず、適応障害と診断され1年で退職した。 療養中、たまたま入った土産物店。髪の毛ほど細かい線で絵を描く九谷焼の技法「赤絵細描」の作品に魅了された。「やってみたい」との思いがふつふつと湧いた。 昔からボールペンで模様を描くのが好きだった。多くのことに苦痛を感じる自分でも没頭できた。周囲に「すごいね」と褒められた記憶が、工芸の世界に飛び込む支えとなった。 注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断を受け、2021年、障害者向け職業訓練校の陶磁器製造科に入った。毎日が楽しくて仕方なく、「これなら人の役に立てるかも」と思えた。
事前に構図を練らず、自由な線で描く。2022年には、地元で権威のある「第45回伝統九谷焼工芸展」で特別賞を受賞した。「やっと人に認めてもらえた」。これまで味わったことのない充実感を覚えた。 昨年から研修所で本格的に学んでおり、卒業後も作家として活動するつもりだ。制作に専念する傍らで、家事など身の回りのサポートをしてくれる人たちへの感謝も忘れない。「自分にできないことは多いけれど、できることは誠実にやる。そうすることで支えてくれる人に恩返しをしたい」