The Novembers、新作リリース前ツアーにあった幸福感と3年ぶりのアルバムが放つ眩しい光
The Novembersが12月6日に3年ぶりのアルバム『The Novembers』をリリースした。このアルバムが先行販売されていたツアー〈Tour – The Novembers –〉の12月1日、東京・Spotify O-EAST公演のレポートをお届けする。
よりよい未来へ。より鮮やかで美しい光のほうへ
The Novembersのニューアルバムを聴いた。発売日は12月6日だが、いち早く届けたい、できればライヴで聴かせたいとの思いから、11月から始まったツアーでは先行販売が行われた。ただ物販で買えるのではなく、終演後にメンバーから作品が手渡しされる〈アルバム付きチケット〉が8300円である。 ライヴハウス基準でいえば、けっこうなお値段、と言えるものだと思う。しかしO-EASTを埋め尽くした観客のほとんどは終演後にアルバムを受け取るべく長蛇の列を作る。この体験にならこの金額を払ってもいい、という判断だ。バンドはそれに見合うだけの感動を確かに与えてくれた。至近距離で爆音と拳を交換しあう、ライヴハウス基準では測れないようなものを。 はじまりは新作同様に「BOY」。それは彼らにしてはずいぶん速い曲で、アッパーなだけでなく、メロディははっきりとポップ、いやブライトと言うのが正しいものだった。断片的に聴こえてくる歌詞は〈僕ら生まれ変わる〉。ダークサイケやニューウェイヴを得意としてきたThe Novembersが、なんの躊躇もなく、光の方向に突き進んでいる。のみならず、手招いてみんなを誘ってくれている印象がある。初めて聴くというのに、置いてきぼりにされる感覚がまったくないのが不思議だった。 次々と新曲が続く。殺伐としたノイズを必要としない、どこまでもまろやかなケンゴのギター。かつて小林が影響を受けたL’Arc~en~Cielを思わせるロマンティックなメロディ。さらには突き抜けた〈Yeah!〉の叫びが印象的なロックンロールもある。彼がこう叫ぶのは初めてのことではないが、今までは悲鳴に似た絶叫のほうが多かったはずだ。しかしこの日、ステージ中央のお立ち台にひらりと立って放った〈Yeah!〉は、ものすごくサマになっていた。 「ロックって〈Yeah!〉なんですよ。パンクやハードコアはそう言わない。〈Oh〉とか叫びになる。でもロックの〈Yeah!〉には一発で雰囲気も空気も変わる説得力がある。たとえば『今〈Yeah!〉って言ってください』って振られた時に、カッコいい〈Yeah!〉が出てくるか。パッと境界線を越えられるかどうか」 BORISのドラマーAtsuoから聞いた言葉だ。The Novembersとスプリットも出した、世界的に高い評価を受ける先輩の言葉がふいに蘇る。なるほど、ニューアルバムのThe Novembersはこの境界を超えたのだろう。暗黒サイケだとか、影のあるニューウェイヴだとか、細分化されたサブジャンルに身を置くことなく、堂々とロックを引き受ける。言い換えるなら、サイケなんて言葉を知らない子供にも伝わる、カッコいい〈Yeah!〉が言えるバンドになる。そこには「いや、自分たちごときがそんな」という照れを叩き壊す必要がある。謙遜のない振る舞い、さらには圧巻の演奏力や歌唱力も必要だろう。スケールの大きさを茶化すことなく、ロックスターとして夢を見せる。本気でやれるのかどうか、という話である。 「アマレット」や「Rhapsody in beauty」など、繊細な初期の曲が続いた中盤のあと、響いてきた新曲がことさら素晴らしかった。タイトルは「Morning Sun」。脆さや危うさのカケラもない、これまたブライトなメロディ。ふくふくと温められ、止まらない高揚に包まれた会場全体が、そのまま天国まで飛んでいくようだ。初めての曲なのにフロアからは大喝采。聴こえてくる歌詞はまたもや〈生まれ変わる〉である。本気でそう言っているし、そのように変わっているのだ。常に誠実に、よい未来を求めてきたバンドではあるが、途方もない夢を今一緒に見ているのです、という感覚で笑顔を共有できたのは、おそらく初めてだ。 ラスト近くに連発される「こわれる」や「BAD DREAM」、「Xeno」はライヴの鉄板ゾーン。ダークサイドに片足を踏み入れ、ヘヴィなリズムを叩きつけ、恐怖すれすれのスリルを見せるThe Novembersはもちろん健在だ。しかし、総じて言えばこの日のライヴは決して悪い夢ではなかった。眩しくて、嬉しくて、満ち足りた気持ちになる1時間半。一言でいうなら、幸せがあった。 3年ぶりの新作はセルフタイトルの『The Novembers』。ここまで眩しい曲が揃ったのは偶然ではないだろう。前作『At The Beginning』はコロナ禍初期、緊急事態宣言の真っ只中に制作されているので、忍び寄る不穏な空気、先の見えない不吉な言葉にはかなりのリアリティがあった。ただ、もう、そこから脱していい時期なのだ。よりよい未来へ。より鮮やかで美しい光のほうへ。その気持ちがまっすぐ花開いている。帰宅して改めて聴いた『The Novembers』。こんなに素直なアルバム、初めてかもしれない。 【SET LIST】 01.BOY 02.Seaside 03.James Dean 04.dysphoria 05.Rainbow 06.かたちあるもの、ぼくらをたばねて 07.November 08.アマレット 09.Rhapsody in beauty 10.Morning Sun 11.誰も知らない 12.GAME 13.New York 14.こわれる 15.BAD DREAM 16. Xeno 17.抱き合うように ENCORE 01.バースデイ 02.いこうよ
石井恵梨子