訪問介護「基本報酬の減額」現場で反対9割 懸念されるヘルパー減からの「負の連鎖」
2024年度からの介護報酬改定で訪問介護の「基本報酬」が引き下げられた。まさかのマイナスの改定に、現場や識者から、不安や怒りの声が上がる。「負の連鎖」が起きるのか──。最期まで自宅で過ごすためには、何が必要か。AERA 2024年4月22日号より。 【図表】訪問介護事業者の倒産推移はこちら * * * 厚労省の直近の調査で、22年度は約4割もの訪問介護事業所が赤字だったことが判明した。同省が報酬引き下げの根拠としていた「高い収支差率」と乖離があり、中小規模事業所を中心に厳しい経営を迫られている実態が浮き彫りになった。 「訪問介護の基本報酬引き下げは、雇用の不安定につながる」。こう指摘するのは、日本介護クラフトユニオン(NCCU)の村上久美子副会長だ。 同ユニオンは2月末から3月頭にかけ、組合員が働く主に訪問介護系の介護事業所にインターネットなどで、「訪問介護等基本報酬引き下げについて」の緊急アンケートを実施した。773件の回答があり「基本報酬の減額」は、「反対」「どちらかといえば反対」が99.2%を占めた。 反対の理由として「基本報酬が下がると聞くと賃金も下がるのではないかと思い、やる気がなくなる」「国は在宅を捨てたと思う」など、様々な声が寄せられた。村上副会長は言う。 「引き下げによって事業所の収入が減れば、従業員の賃金を下げざるを得なくなり、介護従事者は安心して働くこともできなくなります」 ■事業所もヘルパーも減、懸念される「負の連鎖」 こうした不安や批判の高まりに対し厚労省が必死でPRするのが、「処遇改善加算」の拡充だ。基本報酬に上乗せしヘルパーなどの賃金を上げる制度で、訪問介護の場合は最大24.5%を加算できるよう設定。「報酬全体で増額されるはず」(厚労省)という。
だが、NCCUの村上副会長は、「処遇改善加算は手続きが煩雑で、特に小さな事業所は取得しない場合が少なくない」と指摘する。さらに「最も高い区分の処遇改善加算を取得しても、基本報酬の減額と相殺され、収入が減ってしまう場合もあるという試算も出ています」。 4月、介護報酬改定は施行された。村上副会長は「負の連鎖」が起きると警鐘を鳴らす。今のままでは収入が減って閉鎖する事業所がさらに増え、高齢になったヘルパーもこれを機に辞めていく人が多くなる、と。「そうなればサービスを受けられない『介護難民』が増え、家族が介護するしかなくなり『介護離職』を余儀なくされることになります。身寄りがなく施設に入ることもできない人は自宅で孤独死を迎えるかもしれません。今からでも基本報酬を元に戻すべきです」 例えば、防衛費を今の1.5倍にするお金があるなら、介護保険に財源を投入することも可能だろう。東京ケアの滝口恭子所長は、「若者が訪問介護の仕事を目指したくなるよう、介護職の賃金を上げ、介護職のイメージアップもしてほしい」と話し、こう続けた。 「10年後、20年後、自分たちの親や自分自身に訪問介護が必要になった時、利用したくてもヘルパーがいないか、質の悪いヘルパーしか利用できなくなってしまいます。そのことを、国は想像できないのでしょうか」 人は老いていく。ケアが必要になった時、誰もが安心して受けられるよう介護のあり方について、社会全体で考える必要がある。(編集部・野村昌二) ※AERA 2024年4月22日号より抜粋
野村昌二