「合理的にいうと料理ってする必要がない」スープ作家・有賀薫さんがそれでも料理をする理由
朝起きられない息子さんのために「スープ作り」を開始
小竹:有賀さんは料理家としてデビューされるまでには、割と時間が空いていますよね? 有賀:私はすごく遅咲きで、50歳になってからスープ作家になりました。それまではフリーライターをしていて、夫がサラリーマンなので基本的に私が家事や子育てをしていたので、兼業という感じでした。 小竹:スープを作り始めたきっかけは? 有賀:息子が高校受験のときに、どうしても朝起きられなかったので、温かいものがあるといいかもと思い、スープを作ったところ、うまく起きられるようになったんです。 小竹:スープ作家としては、奇跡のような最強のエピソードですね(笑)。 有賀:毎朝スープを作って、それを写真に撮ってSNSにアップしていました。次々と違うスープができるのが楽しくて、それが日課にもなり、気づいたら1年が経っていました。 小竹:毎日違うスープを作っていたのですか? 有賀:基本的に、最初の3年目くらいまでは全部違うスープです。 小竹:そこまでいくと単なる記録ではなく、もはや実験ですね。 有賀:「なぜそんなにたくさんのスープが考えつくの?」とよく言われますが、私としては実験です。昨日はこれを入れたから今日はこれを入れようと組み合わせを次々と試しているだけ。アイデアが天から降ってくるみたいなことはないですね。 小竹:降ってきている印象ですけどね。 有賀:そもそも物を作ることが大好きなんです。料理に限らず、絵を描くのも文章を書くのも好き。アイデアを入れながら手を動かして何かを作り出すことが得意です。 小竹:私も編み物とかパッチワークが大好きなので一緒かも。 有賀:料理も好きでずっとやってきていて、その上でスープに絞る、時間帯が朝だから難しいものは作らないなど、制限がある中でやっていたからできたのだと思います。 小竹:特に思い出に残っているスープは? 有賀:やっぱり最初に作ったスープが一番記憶に残っています。 小竹:どんなスープですか? 有賀:マッシュルームのスープです。スープを作り始めた前日がクリスマスディナーだったのですが、私がマッシュルームを使い忘れて冷蔵庫に残っていたんです(笑)。 小竹:そんな理由ですか(笑)。 有賀:早く使わなきゃと思って、それまでスープなんか作っていなかったのに、朝マッシュルームを刻んでスープにしました。それが上手にできて、「おいしいスープができたよ」と息子を起こしにいったら、ムクッと起きてきたんです。 小竹:それがスープ作りのきっかけになり、お仕事にもなったんですもんね。 有賀:そうですね。1年経つと写真が365枚貯まりますよね。それで展覧会をやろうと思い、神楽坂にギャラリーを借りて「スープカレンダー展」という展覧会を開きました。それが転機になりましたね。 小竹:それはいつ頃のことですか? 有賀:スープを作り始めてから丸1年が経った2013年です。その展覧会が地域新聞に載ってYahooニュースで拡散されて、いろいろな人が来てくれました。そのときに、「食べ物はこんなにも人を惹きつけるんだ」とすごく感じましたね。