「食べる苔」「蟻のトッピング」「野草の料理」世界的な「一流シェフ」は、普通の料理人と何が違うのか?「伝説の農家」が語る驚きの裏側
独自の知見と技術で、名だたるシェフをうならせる野菜を作る「伝説の農家」がいる。浅野悦男、79歳。自称「百姓」。年間100種類以上の野菜を出荷している。 生産者と料理人が直接つながる道を拓いた浅野は、2023年、フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」で「テロワール賞」を受賞。 単なる食材の提供ではなく、「料理人に武器を与えてくれる」と、シェフたちは浅野を慕う。外国からやってくる名シェフたちも、こぞって浅野の農場を訪れる。 【写真で見る】「野草の料理」「蟻のトッピング」世界的な「一流シェフ」は、普通の料理人と何が違う?「伝説の農家」が語る驚きの裏側
浅野の農場で、料理人たちは何を体験するのか。浅野が一流とみなすのは、どんな料理人なのか。『Farm to Table シェフが愛する百姓・浅野悦男の365日』を上梓したジャーナリストの成見智子氏が、「伝説の農家」の矜持に迫る。 *この記事の1回目:「伝説の農家」の極上野菜、3つ星シェフ食べた感想 *この記事の2回目:世界的シェフが大興奮「日本の“意外すぎる食材”」 ■野草も山菜もアリの「奥田イタリアン」
「ぼくが自分で採ってきた野草と、山形の地場野菜が入っています」 奥田政行シェフは、浅野悦男のテーブルに、「野草と野菜のペペロンチーノ」を置いた。 パスタの上に、メナモミ、野蒜、ヤマトトウキといった野草や、在来種の野菜が盛り付けられ、山形産の食用菊「もってのほか」が彩りを添えている。庄内平野の自然をそのまま表現したかのような一品だ。 奥田氏がオーナーシェフを務める山形県鶴岡市の「アル・ケッチァーノ」は、2000年の開店当初から、地元でとれる食材をふんだんに使った料理が人気を博し、全国から客が集まる。
いわゆる「デスティネーションレストラン」(そこへ食べに行くためだけでも訪れる価値のあるレストラン)の元祖ともいえる。 奥田氏は、ソースなどの調味料をほとんど使わず、近くでとれる食材同士を組み合わせることで素材本来の旨みを引き出すのが得意だ。 「調味料というのは、味を調整するものでしょう? 完璧な野菜をそろえて、組み合わせさえ間違えなければ、調整しなくてもおいしい料理ができるはずなんです。そういう考えのレストランが、世界に一店ぐらいあってもいいかなと」