『怪獣8号』は“世界的な”アニメ作品に まるで『攻殻機動隊』草薙素子のようだったミナ
松本直也の漫画を原作にしたTVアニメ『怪獣8号』の放送が4月13日からスタートした。『シン・ゴジラ』の庵野秀明総監督が率いるスタジオカラーが怪獣デザイン&ワークスを担当し、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『PSYCHO-PASS サイコパス』のProduction I.Gがアニメーション制作を手がけるという前情報だけで膨らんだ期待を外すことなく、ハイクオリティの映像を見せてくれている。オリジナルの展開や西尾鉄也によるキャラクターデザインといった味付けもあって、漫画の読者でも新しい見どころを感じられるアニメになっている。 【写真】『怪獣8号』どことなく『NARUTO-ナルト-』感ある西尾鉄也のキャラデザ 草薙素子だ。TVアニメ『怪獣8号』の第1話「怪獣になった男」を見た人の中には、そんな感想を抱いた人が数多くいただろう。横浜方面に現れた怪獣を退治するために出動した日本防衛隊の第3部隊長、亜白ミナがヘリコプターから飛び出して着地した時のポーズが、アニメの『攻殻機動隊』で草薙素子がよく見せるようなものだったからだ。 Production I.Gが手がけたからそうなったのか、第1話の絵コンテ・演出を手がけた神谷友美監督がそう演出したのかは分からない。ただ、こうした仕草にしても、一斉に降下していく防衛隊員たちの戦いぶりにしてもリアリティが感じられる。ミリタリーに造詣の深い押井守監督を擁して制作された『GHOST INTHE SHELL / 攻殻機動隊』から、『人狼 JIN-ROH』『PSYCHO-PASS サイコパス』といった作品へと引き継がれていった、Production I.Gのミリタリー描写に関するこだわりが、『怪獣8号』にも盛り込まれているのだろう。 TVアニメでは、物語のバックグラウンドにリアリティを持たせようとしているところがある。「怪獣になった男」は冒頭で、原作漫画にはなかったシーンが繰り広げられる。ミナが草薙素子ばりの着地を見せる前後で、怪獣が河の中からぬっと現れて上陸し、それに関する報道が行われて防衛隊の出動へと至る流れのこと。政府首脳が官邸で動向を把握し、地域住民たちが避難を開始し、防衛隊が出動して怪獣の撃滅にあたるシーンもアニメオリジナルだ。 漫画の方は、ミナが怪獣を倒した直後から始まって、日比野カフカが所属する掃除業者が処理を始める流れとなっている。そこにアバンとして防衛隊の仕事ぶりを見せる映像を付け加え、怪獣が現れた時に社会はどのような反応を見せるかを描いたことで、現実の世界に怪獣が現れた時の恐ろしさなり雰囲気を、観る人に感じてもらおうとしたのかもしれない。都心部から繁華街、そして横浜らしく丘陵地帯にびっしりと住宅が精緻に描かれた背景美術が、そうした現実感をより高める。 そこに、どの隊が討伐に来るかを市民が話す描写も入れて、第3部隊長のミナがちょっとしたスター扱いされていることを観る人にしっかりと植え付ける。そのミナが怪獣を退治して住民たちに讃えられながら車道を歩く姿を、死体処理に向かって歩道をいくカフカとすれ違わせた描写を挟み込むことで、大きく違ってしまっている2人の立場が強く印象づく。 アニメ『怪獣8号』メインPV第2弾/4月13日より毎週土曜23:00~放送・配信開始 だからこそ、清掃員として怪獣の死体に向き合い、誰もが嫌がる腸の処理に回され辟易とするカフカが、自宅に戻ってミナの活躍を伝えるニュースを見ながら「なんでこっち側にいるんだろ、俺」とこぼす言葉から滲む悔しさが、ことさらに強く感じられるものになる。 第2話「怪獣を倒す怪獣」では、第1話から引き続き登場してくる余獣が原作からさらにパワーアップした醜悪なフォルムであり動きであり表情を見せて、怪獣が出現して街を襲い人を食らうシチュエーションの恐ろしさを強く激しく印象づける。 ぎょろりとした目が動いて狙った獲物をしつこく追い続ける描写しかり、ぎっしりと歯が並んだ口を大きく開いてよだれを垂らしながら人に迫る描写しかり。『シン・ゴジラ』で庵野総監督のイメージを形にしていった前田真宏をはじめとしたスタジオカラーのデザイン力で、原作漫画でも恐ろしかった余獣をよりおぞましいものにした。 今後展開が進めば、登場する怪獣も種類も増えていく。そこで、『シン・ゴジラ』なり『シン・ウルトラマン』で現実世界にいそうな怪獣をデザインし、造形していったスタジオカラーの力が存分に発揮された時、どれだけ恐ろしくておぞましい怪獣が登場してくるのだろうか。想像するだけで楽しくなってくる。漫画に描かれているもののアレンジとなるのか、それとも全く新しい怪獣を投入してくるのか。そんな楽しみもある。 Production I.Gもアニメーション制作の上で、その強みを発揮していくことになるだろう。第2話で怪獣化したカフカが余獣を殴り飛ばしたシーンは、漫画よりも溜めを作り、カフカの怪獣としての強さを際立たせた。血の雨が降る中に立つカフカを下から上にティルトして映し、続けて足下からカフカを映すところは、母親共々命を助けられた少女の目線に近い。少女がカフカに感じたカッコよさや覚えた賞賛の気持ちが、アニメの視聴者にも共有されただろう。 TVアニメでは、西尾鉄也によるキャラクターデザインも持ち味になっている。松本直也の絵がベースにありながら、やや面長になったり目が大きくて端が尖ったりした顔立ちになって、どことなく『NARUTO-ナルト-』感を漂わせている。西尾がキャラクターデザインを手がけたアニメ版の『NARUTO -ナルト-』は世界中にファンがいて、強い印象を残している。そうした印象に引っかかるところがある『怪獣8号』は、世界でもきっと話題になるだろう。 第2話の段階で、漫画の2話と3話をいっきに描いて、四ノ宮キコルの登場まで進めたところには、キコルが準主役級の存在であることを、アニメで初めて『怪獣8号』に触れる人にも早いうちに知ってもらおうといった意識が感じられる。第1話も第2話もアニメのページ数で共に60ページほどとバランスは悪くないが、展開としてはカフカの覚醒という見せ場の後に、キコルとの驚きの出会いがあって印象が分散される。これは、『怪獣8号』という作品をある種の群像劇として描いていく意識があったからなのかもしれない。 『怪獣8号』の漫画が登場した時、アラサーのカフカが夢に再挑戦するストーリーといった受け止められ方がされ、同じような境遇の人たちを喜ばせた。連載が進む中でそれが変わり、キコルや保科宗四郎といった登場人物たちがそれぞれに重荷を背負いながら、怪獣と対峙していく物語になった。キコルの存在を早々に際立たせておくことで、カフカだけの物語ではないと知ってもらい、広い層の関心を集めようとしたのかもしれない。 TVアニメは、第3話以降でカフカや市川レノが防衛隊の入隊試験に挑むことになり、ストーリーに大きく絡む難敵との邂逅もある。さらにカフカとキコルの関係が深まるにつれ激しいバトルも繰り広げられていく。そして3番隊副隊長の保科宗四郎も本格的に登場してくる。漫画のままならその中でミナの印象がやや後退気味になるが、TVアニメではカフカとの幼少期のやりとりが多めに描かれ、現在のミナの心情をうかがわせる描写もあって正ヒロインの座を維持させようとしている。 ミナは防衛隊の序列では雲の上の存在で、カフカが本筋で絡むのはキコルであり相棒的な意味合いではレノが傍らの位置を奪い合う。そこにどれだけミナが絡んでくるかによって、ミナのファンになった視聴者を離さないまま進んでいけるかが決まってくる。声を演じる瀬戸麻沙美のファンも含めて、アニメの制作陣はミナに対してどのような差配を見せるのか。
タニグチリウイチ