五反田TOCビル、異例建て替え延期の舞台裏 再開発「漂流」相次ぐ
東京・五反田のランドマークとして親しまれてきた「TOCビル」。輸入家具や洋服など数々の専門店が軒を並べる卸売りの聖地だ。老朽化に伴う建て替えのため2024年3月、惜しまれつつ閉館した。 【関連画像】●東京近郊で計画延期・見直しになった主な建設案件(写真=建物:PIXTA、背景:goleiro35/stock.adobe.com) ●テナント退出後に延期発表 ところが、事態は予想外の展開を見せる。運営会社のテーオーシーは4月、建て替え計画を見直し、その見直し期間にTOCビルをリニューアルして再開業すると発表。実際に9月、再オープンに踏み切ったのだ。新たな着工時期は33年頃を想定しているという。 混乱ぶりは、同社の顧客に当たるテナントへの対応に表れている。TOCビルで50年以上営業していた小売店の店員A氏は、「寝耳に水とはこのことだ」とため息交じりに語る。同店は閉館予定だった3月31日まで同ビルで営業を続けていた。退去に当たって、TOC側から補償や転居先のあっせんなどはなかった。再開業についてはネットニュースで知ったという。 多くの在庫を抱える中で、閉館の翌日から新しい店舗で営業するために、社員総出で夜通し引っ越し作業に追われた。「すぐに取り壊さないのなら、TOCビル内の倉庫だけでももう少し長く契約させてほしかった。そうすれば、引っ越しの負担も減ったのに」(A氏)。引っ越し直前まで契約の延長を交渉したが、「退去は閉館と同じ24年3月末までだ」と猶予は与えられなかったという。 50年前、A氏にとってTOCビルは多少背伸びをしてでも入居したいと思える憧れの地だった。長年辛苦をともにし、恨みはないとしつつ、「(テーオーシーから)延期について何も言われなかったのは、驚きを超えて呆れしかない」(A氏)と淡々と語った。 建て替え計画の見直しは、テーオーシーの業績にもダメージを与えている。同社の24年4~9月期の営業利益はTOCビルの一時閉館とテナント退去の影響で、前年同期比45%減の6億8100万円に落ち込んだ。 唐突な方針変更の背景にあったのが、建築費の高騰だ。ロシアによるウクライナ侵攻と急激な円安が相まって、建設資材価格が急上昇した。日本建設業連合会によると、21年1月比で建設資材物価は33%上がった。現場で働く人材の人件費も上がり続けている。建設コスト全体では同21~24%上昇しているという。