土鍋は鍋料理を作るためだけのものじゃない。〈普通の土鍋〉の再発見
お粥だったら土鍋でしょう。 時々妙なところで妙なこだわりを発動させてしまう僕は、その日、そんなほぼ「気分」だけの理由で、土鍋を引っ張り出してきたというわけです。 その日僕が作ろうとしたのは、「心平粥」でした。心平粥をご存知でしょうか。これは詩人の草野心平氏が生前愛したお粥です。オリジナルのレシピをそのままご紹介するとこんな感じです。 米をおちょこ1杯、ごま油をおちょこ1杯、水をおちょこ15杯、これを火にかけてとろとろと2時間煮込み、塩少々で味付けする。 これが心平粥です。どうでしょう、この静謐にして美しいレシピは。これをル・クルーゼで作ります? ホットクックに任せます? もちろんそれでもおいしく美しくできるでしょう。しかし、何かが違う。だから僕は、これを土鍋で炊きました。理想的な心平粥が炊き上がり、僕はそれを静謐な心持ちでいただき、大満足でした。 さて僕は、せっかく奥から土鍋を引っ張り出してきたので(またしまい直すのも面倒で)、しばらくこれを使い続けてみることにしました。鍋物用ではなく、あくまでひとつの調理器具としてです。
お粥の次は、米を炊くのに使いました。ふっくらおいしく炊けました。米というのは日本人にとって魂の食べ物ですが、世の中の人々のほとんどが、米は炊飯器でしか炊いたことがないのではないでしょうか。炊飯器は進化を極めた優秀な調理家電ですから、それはそれで何の問題もありません。しかしやはり日本人であれば、機械に頼らず米を炊く術は身につけておいた方が良いような気がします。 どんな鍋でもお米をおいしく炊くこと自体は可能です。5分かけて沸騰させて、最弱火で10分炊いてから火を止めて蒸らす、というのが僕の基本的なやり方ですが、これは土鍋が一番失敗なく簡単だと思います。 炊き込みご飯も炊きました。おいしく炊けるだけでなく、ビジュアルがいいですね。土鍋ごと卓上に置けば、そこはもう割烹です。最近は炊飯専用の土鍋もありますが、別にそういうものではないありふれた土鍋でも、ご飯は普通に(普通以上に)炊けます。 煮物用の鍋としても使いました。冷凍庫のストック肉や冷蔵庫の中途半端な野菜を適当に突っ込んで水を張ったら、後はとろ火にかけて放置しておくだけの「ポトフ」です。これは簡単この上ないだけでなく、土鍋ごと食卓に出せばおいそれとは冷めないという、土鍋ならではの保温性の高さが嬉しい料理です。 お粥も再度作りました。心平粥は地味すぎて家族のウケがイマイチだったので、手羽先とさつまいもも加えて、これまた弱火でとろとろと煮込みました。もちろん煮込んでいる間はほぼ放置です。 というわけで今回から3回にわたって、土鍋を使う鍋物以外の料理をご紹介していきたいと思います。土鍋はカセットコンロの上にのみ置かれるべきではありません。今こそ、多くの家に当たり前のようにあるであろう「普通の土鍋」の魅力を再発見していこうではありませんか。