囲碁界のサラブレッド・藤沢里菜の優勝なるか ── 会津中央病院杯
「囲碁のタイトル戦を会津でやりたいね」それはとある会食の席での冗談のような話だった。2013年の秋のことだ。発言の主は福島県にある会津中央病院の理事長・南嘉輝さん。そしてこの何気ない一言が日本一の女流棋戦を生むきっかけとなった。
そこから数ヶ月後、2014年1月に新しい囲碁の棋戦が誕生した。「会津中央病院杯・女流囲碁トーナメント戦」である。通常は年単位で準備を進める囲碁のタイトル戦が数ヶ月という異例のスピードで誕生したこと、700万円という女流棋戦最高の賞金額であること、さらには女流棋戦で初めて2日制の対局が採用されたことなど、異例づくめの展開だった。 この棋戦、実は仕掛け人がいる。女流棋士の青葉かおり四段だ。プロデューサーとして東京と会津を行き来しながら、日本一の女流棋戦を作るために奔走した。「囲碁棋士にプロデューサーなんてできるのか」そんな声を後目に、契約やイベントの運営方法などを勉強しながら企画を進めたという。 「地元・会津を盛り上げたい」という関係者の思いを叶えるため、さらには囲碁界や棋士をもっと知ってもらい、囲碁ファンを一人でも増やすため、「とにかくインパクトがある棋戦にしたい」と様々な企画を盛り込んだ。さらにその思いは、棋戦の展開にもドラマを生んだ。 1月から始まった予選には60名を超える女流棋士が参加し、3月にはベスト8が決定。5月には地元会津で準々決勝、準決勝が行われた。前夜祭では女流棋士たちが袴姿で艶やかな装いを披露し、地元のファンを喜ばせた。
優勝の大本命は女流名人・女流棋聖の2つのタイトルを持つ謝依旻(しぇい・いみん)。その実績から本戦シードでの登場となった。だがここでも異例の展開が訪れる。謝が準々決勝で敗れたのだ。相手は15歳の藤沢里菜二段。天才と呼ばれた棋士・藤沢秀行を祖父に持ち、父も囲碁棋士というサラブレッド。11歳6ヶ月という史上最年少で入段を決めた期待の若手である。