日米の心理学者が語る「内なる声」の驚異の力 アスリートも実践する「自分と距離を置く」方法
田中:内なる声を、自分の敵ではなく、味方につけるわけですよね。 クロス:それが望ましい状態です。内なる声は価値ある資産である一方、人類最大の脆弱性でもあります。しかし、内なる声は、素晴らしいことをなすように進化してきたわけです。 クロス:デビル・ミヤコが主役なら、乗っ取られてしまいますが、私は、内なる声を取り除くのではなく、より良く考えるために、内なる声が必要なことをできるように解放し、味方につけたいのです。
田中:世界情勢が緊迫している今、子どもたちの未来を考えると難しい状況だと感じますが、本書を読んで希望も持ちました。 クロス:今の世界は情報にあふれていて、せっかくの知識を本当に人のためになるように生かし切れていない状況です。私は科学者ですから、チャッターに関して最高水準の科学的裏付けがあることが非常に重要で、それが当然の責任だと考えています。 田中:クロスさんの今回のご著書のように先行研究を具体的に示した科学的根拠という言葉の意味が明確な論じ方であると、私のように選手時代からなんでも疑ってかかる慎重な人間でも納得します。
■アスリートだけでなく誰でも応用できる クロス:田中さんは、今も選手と仕事をされているのですか? 田中:最近は、ボクシング・ミドル級世界チャンピオンである村田諒太選手、車いすバスケットボール男子日本代表チームと8年間活動しました。 特に、車いすバスケのチームには、交通事故、がん闘病中などいろんな人生背景の選手がいて、彼らは真剣に勝ちたいと望んでいました。そこで、チャッターをセルフトークに変えたり、互いに協力して安全基地を築いたりすることに取り組みました。
私にとっても本当に学ぶ機会の多い濃厚で貴重な時間でした。彼らは、2021年東京パラリンピックで銀メダルを勝ち取りました。 クロス:見事ですね。おめでとう! 田中:そういった今までの経験と知見をまとめた『心の整えかた』(NHK出版・2022)という本を書きました。アスリートが行うメンタルトレーニングについての内容ではありますが、誰の日常生活にも応用できるものになっています。 クロス:素晴らしいですね。今後も連絡を取り合いましょう。
田中:ありがとうございます。日本のアスリートにとって、心理学が何のためにあるのかを知ることはとても重要だと改めて思いました。 (構成:泉美木蘭)
田中ウルヴェ 京 :スポーツ心理学者、五輪メダリスト/イーサン・クロス :心理学者/ミシガン大学教授