漢字テストで明石焼のお代割り引き 壁に並ぶ難読字、元写植機会社の店主が営む
兵庫県明石市の台所としてにぎわう「魚の棚(うおんたな)商店街」の西隣に、漢字テストに正解すると代金の割引が受けられる独特なサービスを提供する明石焼き店「ゴ」がある。店主の小谷喜久雄さん(77)は写真植字機メーカーの元営業マンで「味を楽しみながら漢字を学んで」とほほえむ。(共同通信=西川祐亮) 店内の壁には難解な読み方の漢字598字が所狭しとはり付けられている。2002年の開業当時は「約千字並んでいた」という小谷さん。客が待ち時間を退屈しないようにと当初から続けている取り組みだ。 明石焼きは10個入りで630~780円。注文すると店員から漢字の読み方を答える問題用紙が渡される。全10問あり、6問正解で5%引き、全問正解すると2割引きとなる。 小谷さんが3種類の問題用紙を作成し、3日ごとに問題を作り替える。また、壁に書かれている漢字の読み方を全て正解すると明石焼きが1年間無料になるサービスもあり、これまで男女14人が成功したという。
「漢字を知らなくても当たり前という風潮が気に入らなかった」と小谷さんは思いを語る。兵庫県淡路市出身で、高校卒業後に大阪府の写植機メーカーに就職。漢字は好きではなかったが、営業畑で文字盤を売りながら読み方を覚えた。 23歳で、幼稚園からの幼なじみの妻マチ子さん(77)と結婚し、55歳で退職。当時淡路市で明石焼き店を開いていたマチ子さんの母からレシピを教わり「本場に出店して味で勝負したい」と明石市で開業した。 昆布やかつお節でだしを取り、生地には食感をやわらかくするため小麦粉からタンパク質を取り除きでんぷんを精製した「じん粉」を使用。牛すじとこんにゃくを煮た「すじこん」や、明石名物のタコと梅の組み合わせなど、小谷さんがおいしいと思った食材をメニューに採用する。 店名は写植機メーカーに勤めていた時のあだ名だった「ゴリラ」から取った。「将来『リ』と『ラ』の店を大阪に開きたいが、年齢的に難しい」と小谷さんは笑った。
▽明石焼き 兵庫県明石市の郷土料理で、小麦粉やじん粉に卵やだし汁を混ぜた生地にタコを入れて焼き上げる。江戸末期―大正時代の地場産品で宝石サンゴを模した「明石玉」の製造に卵の白身が使われ、余った黄身と近海で取れるタコをまぜ合わせて露店で提供したのが起源とされる。たこ焼きと異なり、明石焼きはかつおや昆布のだし汁につけて食べる。