『ホテル・ルワンダ』の監督が描く、ホロコーストの約20年前に起きた大虐殺
ニュースやドキュメンタリーだと距離感がある 史実ベースの長編映画の持つ力とは?
Q.現代にも通じる実話をベースにした映画が最近、多いように思えます。こうした映画には、いまよくない方向に動きつつある世界を変えていく力があると思いますか? 徒歩で砂漠を延々と横断していくシーンやモーセ山に立て籠もって戦うシーンをスペインで撮影している最中、連日のように、シリア難民の報道がなされていました。国を追われた難民たちがトルコへ行こうとしている。ちょうどこの物語が展開されている地域です。その難民たちが地中海を渡って、ほかの国へたどり着き、救助されたというニュースもありました。この映画の題材は100年も前の話ですけれど、今でもまったく同じようなことが繰り広げられている、なんとも言えない状況です。 映画には人を触発していく力はあると思います。ニュース映像やドキュメンタリーですと、少し距離感があるように思えます。しかし、史実をベースに長編映画で物語ると、私たちは登場人物を通してその世界に入って行けます。彼らがどのようなことに苦しみもがき、生き残って、勝ち残っていったのかをより一層差し迫ったかたちで追体験ができるのです。 僕が撮る作品の根底にあるテーマは、それなりに欠陥を抱えた完璧でない普通の人たちが、ある状況に追い込まれ、逆境の中からヒロイズムを自らの中に見出して、打ち勝っていく、克服していくというものです。この映画でもミカエルが一番最後に「こうして私は生きている」と言います。まさにそういう物語を僕は繰り返し撮ってきています。これをひとつのドラマを通して史実を語るジャンルと考えるなら、過去には『アラビアのロレンス』(62)、『キリング・フィールド』(84)、『シンドラーのリスト』(93)など、素晴らしい作品があり、やはりこうした映画には、史実を人に知らしめ、世界を変える力を宿していると思います。
Q.恨みと憎しみに燃えるミカエルに対し、「生き延びることが復讐よ」とアナが言うシーンは、とても力強く感じます。監督が特に気に入っているシーンはどこですか? ジョージ監督:あれはとても力強いメッセージが込められた場面ですね。スペイン中央部の山上で撮っていたのですが、とてもたいへんな撮影でした。 私のお気に入りは、クリスとエムレ(ミカエルのオスマン帝国側の友人)との刑務所でのやりとりのシーンです。クリスがエムレに米国大使へ連絡を取り次いでくれと頼みます。エムレにとっては、自分の国を裏切ることはできませんが、力になりたいと思っているのです。二人のやりとりを見ていて「いいな」と思ったし、撮影しがいのあるシーンでした。エムレは普通に楽しく生きていきたいお坊ちゃんなんですよね。でもいい人なんです。とても切ないキャラクターなんですけれども。このシーンがとても好きでした。 ◇ ◇ 現在に至るまで、トルコ政府はアルメニア人大量虐殺の事実を認めていない。そのため、この悲劇の舞台だったトルコでの撮影はかなわなかった。 (取材・文・撮影:小杉聡子)
『THE PROMISE/君への誓い』2018年2月3日(土)、新宿バルト9他にて全国ロードショー、配給:ショウゲート、(C)2016 THE PROMISE PRODUCCIONES AIE-SURVIVAL PICTURES,LLC. ALL Right Reserved.