平井伊都子の「2024年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 “ヒーロー”が世界各地で語られた1年
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2024年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第9回の選者は、ロサンゼルス在住のライター・平井伊都子。(編集部) 【写真】『イカゲーム』 シーズン2 場面写真 1. 『リプリー』(Netflix) 2. 『イカゲーム』 シーズン2(Netflix) 3. 『Mr. & Mrs. スミス』シーズン1(Prime Video) 4. 『ヒーローではないけれど』(Netflix) 5. 『シンパサイザー』(HBO/U-NEXT) 6. 『推定無罪』シーズン1(Apple TV+) 7. 『LTNS~不倫探偵夫婦物語~』(WOWOW) 8. 『エクスパッツ ~異国でのリアルな日常~』(Prime Video) 9. 『一流シェフのファミリーレストラン』 シーズン3(ディズニープラス) 10. 『ザ・フランチャイズ』(HBO/U-NEXT) 米調査機関の統計によると、2024年第2四半期のテレビシリーズ・映画の制作本数は前年比(2023年はハリウッドのWストライキのため2022年との比較)40%減、第3四半期は35%減。特にネットワーク局によるドラマ制作本数が減り、配信は微減から横ばい、映画に関しては微増が記録されている(※)。『パラサイト 半地下の家族』『イカゲーム』で世界の映像覇権を獲った韓国も、映画が作られづらい状況が続いている。パンデミックを挟んだ2019年から21年にグローバルOTTサービスの盛行が牽引したピークTV時代はゆるやかに閉じていく。 だからと言って傑作が生まれないわけではない。ドラマシリーズは物量ではなく深度で、私たちの可処分時間を侵食する。映画監督が手がけるドラマシリーズに魅せられた1年だった。スティーヴン・ザイリアンの『リプリー』、パク・チャヌクの『シンパサイザー』、ルル・ワンの『エクスパッツ』、二大名撮影監督を起用したアルフォンソ・キュアロンの『ディスクレーマー』も作品としては評価できないが、視覚に訴えかける試みは成功していたと思う。A24作品で映画監督デビューが発表されたヒロ・ムライの『Mr. & Mrs. スミス』、年明け早々Netflixで配信される是枝裕和の『阿修羅のごとく』もこのカテゴリーに入る。これらのビジョナリーフィルムメイカーたちによる作品は、物語やキャスティングに評価軸が置かれがちなドラマシリーズに挑戦を挑む。 モノクロ映像で陽光のイタリアとカラヴァッジョの絵画を映しリプリーに影を重ねる演出。『エクスパッツ』第5話で描かれた香港を形成する人々をつなぐ“雨傘”。パク・チャヌクの“壁紙フェチ”を確認できる『シンパサイザー』のプロダクションデザイン。『LTNS』は、『ユンヒへ』のイム・デヒョンと『小公女』のチョン・ゴウンが脚本・演出を担当。第5話、第6話は『パラサイト 半地下の家族』の制作会社が作ったドラマだけある、といった展開だった。