「幸せな時間が永遠に続くと思っていた」定年まであと数年だった武田真一 妻に初めてNHK退職の思いを告げた瞬間
■会社に残るのか、新しい道に飛び出すのか ── NHK退職を決めたとき、奥さんの反応はいかがでしたか? 武田さん:特に驚いた様子もなく、「いいと思うよ。やりたいようにやってみたら?」と言ってくれました。反対したり「本当に大丈夫なの?」といった不安の言葉もまったくなかったのは、ありがたかったですね。それまで自分の進退について相談してきたわけでないのですが、高校時代からの長いつき合いですから、僕が迷っていることになんとなく気づいて、心の準備ができていたのかもしれません。辞める前の2年間は、大阪に単身赴任で離ればなれだったので、ぼくがフリーランスになることで「また一緒に暮らせる」という安心感も大きかったようです。2人の子どもは、すでに大学生と社会人。彼らもそれほど驚かず、僕の決断を「お父さんらしい」とおもしろがっている様子でした。
会社に残るか、新しい世界に飛び出すか。わかれ道に立った時点では、その先にどんな道が続いているのか、どちらが正解なのかはわかりません。仮に、どちらか一方の道が素晴らしく見えたとしても、それは幻想にすぎない。先のことを不安に思って足踏みをするよりも、自分が選んだ道をまっすぐ懸命に突き進むことで、「これが正しい選択だった」と、後から思えるように努力していくことが大事だと思うんです。それは、妻も同じ考え方でした。ですから、こころよく背中を押してくれたのでしょう。
── 選んだ道を正解にするかどうかは、自分自身にかかっていると。 武田さん:そう信じています。それならば、なんとなく未来が想定できる道よりも、予測できない道を選ぶ方が、刺激があっておもしろいのではないかと思って。もちろん、その分、労力が増えるので、大変さはありますけれど(笑)、見るものすべてが新鮮で、毎日とても充実しています。 PROFILE 武田真一さん たけた・しんいち。1967年、熊本県生まれ。筑波大学卒業後、1990年にNHK入局。『ニュース7』『クローズアップ現代+』や『紅白歌合戦』の総合司会などを担当し、2023年2月に退局。フリーに転身後は、情報番組『DayDay.』(日本テレビ)のMCとして出演中。
取材・文/西尾英子 写真提供/武田真一
西尾英子