木村カエラ「20年経ったからこそ、また自由になれる」葛藤を乗り越えた過去や、“今”の楽しさを語る
「20年経ったからこそ、また自由になれる」
──デビュー当初こういう未来を想像されていましたか? ぜんぜん! もう、ただ必死で。今もそうなんですけど、私ってあまり未来のことを考えないんです。今だけを見る。だからデビュー当初は、こんな未来は想像もできなかったですね。そもそも、本当はバンドの女の子としてデビューしたかったんですよ。もともとそういう活動をしていたので。それがソロでデビューして、木村カエラという名前で活動すること自体、自分の予想とは違うんです。 ──なるほど。 デビュー当時はメディア露出も活発にしていたので、当時から見てくださっている人は、私が変わっている人間だって知っていると思うんです(笑)。モヒカンになったり、口が悪かったり。でも、『Butterfly』しか知らない方は、私に“おとなしい女の人”という印象があると思う。それがすごくおもしろい。そう考えると、20年を迎えた今、私は何をやってもいいと思うんです。 ──それは、カエラさんの過去を知らない世代も多くなってきたから? そう! デビューしたあとに生まれた人もたくさんいますよね。私のことを知らないということは、何をやってもいいんですよ! 20年経ったからこそ、また自由になれる。もう一度同じことをしてもいいくらい、きっとまたゼロから始まることができる、それって最高だなって。 ──以前は、いかがでしたか? 10周年くらいのときは、周りが持つイメージが『Butterfly』の木村カエラと、イケイケな木村カエラとで、真っ二つに割れたんですよね。だから、すごく作品が作りづらくなって。例えばロックをやると「これは、木村カエラじゃなくない?」みたいな受け止め方をする人もいるけれど、「もともとこっちなんだけどな」みたいな(笑)。自分の軸が見当たらなくなっちゃった時期もありました。20年経って、ようやく抜けたなという感覚はあります。元の自分に戻れるというか。それもあって、今はすごく楽ですね。 ──では、これからはもっと自由なカエラさんになっていく。 なると思います! 喋り方とかも、もともとこういう感じなんだけど、「え、生意気」と思われてしまうことも昔はあって。でも、ラジオは自分の声を届けられるから、本当の自分を伝えられる。だから、ラジオが自分にとってすごく大事だという話に繋がってくるんです。 ──ちなみに、軸が見当たらなくなったときはどうやって解決されたんですか? ちょうど結婚や出産をした時期でもあったから子どもを一番に考えていて、自分と向き合う時間がそもそもなくて。だから、いいタイミングで子どもを授かっていたりしていたなと思います。時間があったら、きっと考え過ぎちゃったと思うし。 ただ、インプットする時間がなくて、空っぽになったんですよね。もともとは常にアイデアが出てきたのに、まったく浮かばなくなったんです。「まずいな」と思っているタイミングで、『NIKKI』(2020年に刊行した日記形式エッセイ)を書くお話がきたり、その直後にコロナ禍がやってきたりして。そうすると結局、歌いたい、歌いたい、歌いたいって気持ちになりました。インプットする時間もたくさんありましたし、またそこから復活していったのかな。 そのときはつらかったんですけど、今こうやって振り返ってみると、全てはなるようになっていて、自分がそのとき気づかなかっただけなんだなと。人生は回っている。真面目に向き合ったからこそ、今こういうふうに考えられるんだなとも思います。 ──そういう経験も、カエラさんは歌にすることができる。 そうですね。歌に全部変えてきました。自分が悩んでいた時期、自分がもやもやして自分の中から何も出てこないときもあったけど、人間だからそんなときは絶対あるんですよね。「楽しくない」とか「毎日何をやっているのかワケがわからない」とか「笑ってない」とか、そういう時間って誰にでもある。そういうときに歌詞を書くと真面目になっちゃうんですけど、それもそれでいいなと思えるんです。つらいこともあったけど、これからはもっと楽しくなるぞって思います。 ──素敵ですね。20年を迎えてもなお楽しいことがたくさんある! 今からも、すごく楽しいのかなと思っています。 ──そんな今のカエラさんを楽しめる武道館公演が10月26日に控えています。どのようなライブになりそうですか? このあいだ選曲していたんですけど絞りきれなくて、「1日の公演じゃ足りない」と思ったほど。そう思える曲をたくさん生み出せたことが幸せです。 その楽曲たちは、20年間という、ひとりの人間が生まれてから成人するまでの期間で生まれたものです。ライブに来てくれる方の人生とともに作ってきた曲たちでもあります。どんなときに私の曲を聴いてきたかは人ぞれぞれだけど、例えば「このとき、こういう人と付き合っていたな」とか、きっといろんなことを思い浮かべると思うんです。だから武道館では、思い出のアルバムをめくるようなライブがしたい。そのうえで「今がめっちゃ楽しいよね!」とみんなで共感し合えるような内容になればと思っています。 (取材・文=笹谷淳介)