あの頃は良かった! 懐かしの日産セダン3選
(2)プリメーラ(初代)
いわゆるバブル経済が続き、クルマも大型化、大排気量化、さらに数かずの新技術が搭載された1990年に登場して、意外なほど地味なたたずまいに驚かされたのが、P10型ともよばれる初代プリメーラだ。 これも開発者の思い入れが強かったモデルだ。「欧州の名車に匹敵する走りの性能と快適性を実現した新たなコンセプトがベースだった」と、日産自動車のホームページでは解説されている。 このP10型プリメーラをひとことで評して“正統派セダン”と日産ではしている。この時代はS10型シルビアとともに、ミドルクラスのモデルにおいて、欧州志向が強く出ている。 いろいろなところで書かれているように、開発の背景は、日産の「901活動」。これは「1990年に世界一の動性能を実現しよう」を合言葉にした同社内のクルマづくりにおけるテーマで、たとえば、プリメーラで採用した前輪マルチリンクサスペンション開発もここに含まれている。 いまだに国内志向が強かった“セドグロ”や、独自の道を進みはじめた「スカイライン」など、正統派セダンなる命題への答が社内でもまちまち。1980年代後半からの日産のデパート化ぶりは、とてもおもしろい。 このクルマも、いま乗ったらどうだろう? と、興味を惹かれる。当時は、これもさんざん書かれているように、足まわりがしっかり(しすぎ)で、評判が悪かった。でも私は個人的に、シャッキリした設定で好みだった。 私にとってP10型のネガティブな点はボディデザインだ。シートとか、ドイツ車志向なのか、しっかりとからだを保持してくれる設計で、ざっくりした感触の表皮(ファブリック)もよかった。でも、スタイリングは、なんともおもしろみがない。「素材がいいけど見てくれはよくない、たとえていうなら家庭料理みたいだ」と、当時思ったものだ。
(3)ブルーバード(8代目)
連綿とモデルチェンジを繰り返したブルーバード。1987年に発売された8代目、別名、U12型は、特徴をひとことでいうと、地味。内容はいいんだけれど、華がない。でも1991年のU13型がもっさりしたスタイリングになったのに対して、スマートさは魅力的だ。 内容的には、スタイリングイメージとはかけ離れて、かなり凝っていた。当時、日産自動車が持っていた技術を注ぎ込んだのだ。前輪駆動だけれど、スポーティグレード「SSS(スリーエス)」には「アテーサ」なるフルタイム4WDシステムを搭載。 卓越したハンドリング、操縦安定性を実現するため、「STC-Sus(スーパートーコントロールリアサスペンション)」や「4WAS(4輪アンチスキッドブレーキシステム)」も組み合わせた。エンジンもインタークーラー付きターボチャージャー装着タイプを用意。 比較的軽量(1tそこそこ)で、それに対して、1.8リッターあるいは2.0リッターのエンジンパワーは十分。操縦が楽しいクルマだった。まっとうに作られたモデルである。翌1988年登場のシルビアS13型は、イメージ的にはブルのショートボディのクーペ版という印象もあり、このときの“走りの日産車”は楽しめた。 このときは、車両の開発にふんだんに費用がかけられた時代。ボディタイプもセダンと4ドアハードトップがあった(個人的にまとまりがあると感じられたのはセダン)。さらに、モデル末期の1991年には豪州製のユニークなハッチバックボディの「オーズィー」(現地名ピンターラ)が追加された。スタイリッシュとはいけないけれど、実用性重視で、ステーションワゴンとセダンの中間的なクロスオーバー車型。 日産はいろいろな試みも行っていたのだ。901活動といい、どれも、1990年代、2000年代へと続いていったらよかったのになぁ……と、いまさらながら思う。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)