「時速194キロ」で死亡事故も“危険運転”ではないのか…被告側は「最高速度250キロの高級スポーツカーなので制御困難ではなかった」と主張
時速194キロの猛スピードで一般道を走行し、死亡事故を起こしたものの、あくまでも運転手の“過失”で危険な運転とは言えない──。地検の判断に異論が殺到したのは当然だろう。注目の判決は今日、11月28日に言い渡される。(全2回の第1回) 【写真】なぜ「危険運転」の罪に問えないのか…遺族の切なる思いに賛同して驚くべき数の署名が集まった ***
凄惨な事故は2021年2月9日午後11時ごろに発生した。元少年(当時19)が大分市内の港湾道でBMWを時速194・1キロで運転し、交差点に突入。対向車線で右折しようとしていた男性会社員・小柳憲さん(同50)の乗用車と衝突した。 法定速度は時速60キロ。常軌を逸した速度による事故の衝撃は凄まじかった。法定速度の3倍を超える猛スピードで激突された乗用車は数10メートル吹っ飛んだ。運転していた小柳さんはシートベルトを装着していたが、衝撃でベルトがちぎれて車外に放り出された。 小柳さんの体は地面に叩きつけられ、胸や腰の骨が折れた。直接の死因は出血性ショックだったが、遺族によると遺体は下半身が複雑骨折しており、火葬後には骨が粉々になったという。元少年は公判で「アクセルを踏み込んで加速する感覚にわくわくしていた」と説明。警察など捜査段階での取り調べでも「何キロまで出るか試したかった」、「以前も何回か猛スピードを出したことがある」などと供述した。 2021年4月、大分県警は危険運転致死容疑で書類送検。大分地検が5月に同じ容疑で大分家裁に送致すると、家裁は元少年が成人に達したとして検察官送致を決定した。いわゆる“逆送”だ。危険運転致死罪の法定刑は「懲役1年以上、最長20年」と定められている。もし逆送を受けた大分地検が同じ罪で起訴していたなら、元少年は「特定少年」と位置づけられ、実名の公表などが可能だった。
遺族の猛反発
少年法は18歳と19歳で犯罪を犯した者のうち、「法定刑の下限が懲役か禁錮1年以上の罪」などの条件を満たした場合、特定少年として基本的には成人と同じように扱うことを定めている。実名だけでなく写真の公開も可能だ。 だが大分地検は2022年7月、過失運転致死罪に切り替えて起訴を行った。過失運転致死罪の法定刑は「懲役7年以下」と定められており下限はない。このため大分地検は起訴状で被告の名前を「21歳男性(犯行時19歳)」と匿名にした。 衝突事故で死亡した小柳さんは鉄鋼加工の関連会社に勤務し、40歳の時に両親のため家を建てた。その家で両親と姉の4人で暮らしていた。事故の日は勤務を終え、自宅に帰る途中だった。 「時速194キロは異常なスピードであり、単なる交通事故ではなく殺人事件だ」と憤りを覚える人も多い。改めて殺人罪の法定刑を確認しておくと、「死刑または無期、もしくは5年以上の懲役」と定められている。だが元少年は「死刑または無期」どころか、「最長で懲役20年」の刑から「懲役7年以下」に“格下げ”されてしまった。おまけに実名も伏せられたままだ。遺族が「とても納得できない」と猛反発したのは当然だろう。 2022年8月、遺族は記者会見で「不注意による過失の事故とは思えない。罪名を危険運転致死に切り替えるべきだ」と訴え、大分地検に起訴内容の変更を求める上申書を提出したことを発表。さらに翌9月から署名運動を開始した。