「熊対策」来春見据え 12月も警戒緩めず
「専門家派遣 活用すでに6件
熊の冬眠が始まる12月は例年、被害も減り始めるが今シーズンの多発を受け、警戒を続ける自治体は多い。岩手県や静岡県函南町などは、環境省の「クマ対策専門家緊急派遣事業」を活用。専門家の助言を受け、12月だけでなく来春以降も見据え、出没時の備えや熊を寄せ付けない地域づくりを進める。 環境省によると、熊の大量出没を受けて始めた「クマ対策専門家緊急派遣事業」は現在、岩手県や静岡県函南町を含む6件が活用している。 自治体の要請に応じ、同省の「鳥獣プロデータバンク」に登録されている専門家を派遣。現場で実践すべき対策について指導、助言する。派遣に伴う経費は同省が負担する。 同事業は2024年3月1日実施分までが対象。同省は「12月だけでなく来春以降も見据えて、地域での対策実践に向けて活用してほしい」(鳥獣保護管理室)と話す。
「寄せ付けない」徹底 岩手県が緊急対策会議
岩手県は、ツキノワグマの人身被害数が例年を大きく上回っていることを受け、12月も冬眠が遅れる恐れがあるとして、市町村長や猟友会、JA岩手県中央会の役員らを集めた緊急対策会議を開催。環境省を通じて専門家を招き、引き続き警戒が必要という認識を共有した。 環境省の事業を活用して招いた岩手大学の山内貴義准教授は、柿などが人里に残り、熊が食べ続けることができる環境だと、冬眠が遅れて被害が続く恐れがあると指摘。対策の徹底を促した。 県内の人身被害は今シーズン、過去最多の48人に上る。なお警戒が必要だとして、11月下旬に緊急対策会議を開催した。 会議内で同中央会は、飼料用トウモロコシやリンゴで被害が多いことを報告。熊を近づけさせないよう休耕地の草刈りが重要だとした。猟友会関係者は、捕獲従事者の育成を課題に挙げた。 県は熊の餌となる生ごみや収穫後の野菜残さの管理、やぶの刈り払い、電気柵設置などを呼びかけており、同会議でも改めて徹底を確認した。
被害未然に防ぐ 初動対応講習会 静岡・函南町
静岡県函南町は、6日に環境省の事業を活用して専門家を招いた講習会を開く。今シーズンに熊の目撃や人的被害は出ていないが、近隣地域で捕獲や目撃が相次いでいることを踏まえ、冬眠期に入る12月も警戒が必要と判断。住民の安全を守るため、町職員や地元警察、猟友会メンバーらが出没時の初動対応を学ぶ。 同町は県東部の伊豆半島の付け根に位置する。同半島では河津町で10月中旬に熊が捕獲されており、冬眠前の早い段階で講習会を開くことにした。 住宅街で出没する可能性も考え、麻酔銃を使った捕獲ができる専門家を呼ぶ。熊への対処方法や痕跡の探し方、住民の安全確保へ関係者が取るべき行動などを把握する。 町は「被害が起きてからでは遅い。初動対応をしっかり学びたい」(農政係)と考える。講習内容を踏まえ、今後の熊対応の体制見直しも検討する。(音道洋範、木村薫)
日本農業新聞