【真理子の部屋/新潟記念】馬への優しさと芯の強さ
【真理子の部屋/日曜新潟11R・新潟記念】 競馬に携わる方々を独自の感性で描き続けてきた赤城真理子記者。それらは「予想」というカテゴリーにとどまらない、ある種の〝物語〟といっていいのかもしれない。最前線で活躍する赤城記者がお届けする人馬のストーリーをぜひご堪能ください。
◆馬への優しさと、芯の強さ
8月20日に金沢競馬場で行われたJRA交流戦、加賀山代賞。各馬が最終コーナーに差しかかる際、「あっ!!!」と声が出た方は多いのではないでしょうか。かくいう私もそのひとり。ハナを切っていたパシュミナが突然大きく外に逸走し、画面から消えていったのです。 あまりに突然の動きだったため、馬とジョッキーさんの安否が心配されました。もはやレースどころではないような心境でしたが、勝負は決したと思われた直線半ば、外から一気に上がってくる栗毛の馬体が…。その馬こそ消えたはずのパシュミナでした。ものすごい脚でグイグイ伸び、2着にまで追い込んできたのです。 翌週、鞍上の柴田裕一郎騎手にお会いした時、思わず「本当に、落ちなくて良かったです…!」と声をかけてしまいました。柴田騎手は「オルフェーヴルしちゃいました」と肩を落としつつ、「あそこで落ちたら僕、ジョッキー失格ですから」といいます。でも、見ている限り本当に突然の動きで、予測できない感じだったんです。 「正直、予兆はなかったです。本当にいきなり横っ跳びしちゃうような感じで…。でも、初めてハナを切る競馬をしたから、周りに馬がいない状態でスタンドが見えたりして、きっと怖かったんだと思います。僕がそれを分かってあげないといけなかった。どんなにおとなしい馬に乗るときでも、もっといろんな可能性を意識して乗って、対応できるようにならなきゃと反省しました」 おそらく…いえ、どう考えても、ご自身だってすごく怖かったはずのトラブル。それでも柴田騎手は馬のことだけを思いやり、ご自身は反省しきりだったのでした。パシュミナを管理する河嶋調教師は「あれは完全に僕の責任です。でも柴田は落ち込んだ様子で謝ってきました。〝こっちの責任だよ〟って言ったら、すぐに〝また乗せてください!〟って。根性ありますよ」と言います。もう中央競馬では3歳の未勝利戦が今週末で終わってしまうため、パシュミナは高知競馬に移籍することになったのですが、あれだけ強い競馬ができるならきっと〝無双〟までできておかしくありません。逸走しながらも、柴田騎手が最後まで諦めずに前を追った前走の競馬が、高知でもきっと生きてくれると思います。