意外と多い、若者が全然採用できなくなった地方企業が変えるべき「たった一つのこと」
この国にはとにかく人が足りない!なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 ベストセラー『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
経済の局面は地方中小企業から変わり始めている
ここまで(参照「初任給を18万5000円に上げて週休2日を実現…“若者が足りない建設業”が直面している現実」など)、地方都市で行った企業経営者へのインタビューを通して、地方都市で事業を営む中小・中堅企業の現状を解説してきた。 経営者の話から、地方経済において、経済の局面は明らかに変わってきている様子がうかがえる。少子高齢化による影響に都心への人口流出なども相まって、地方経済においては若い労働力が急速に減少している。一方で、過去の予想に反してサービスに関する需要は堅調を維持している。その結果として労働市場の需給はひっ迫し、人手不足が深刻化しているのである。 人手不足の深刻化は企業の行動変容を促す。近年、多くの企業で労働力の確保は経営上の死活問題となっており、そのためには否が応でも従業員の労働条件の改善を行わざるを得なくなっている。そして、従業員の労働条件の改善は企業にとっては利益を圧迫する要因となっており、今後は生産性を高めるための取り組みを成功させなければ市場において生き残っていくことはできないと、経営者は危機感を強めている。 マクロの日本経済の状況に目を転じれば、景気回復が続く中で賃金上昇の動きに世の中の注目が集まっている。多くの人が特に着目しているのは、春闘など首都圏の大企業を中心とした賃上げの動きだろう。連合の調査によれば、2023年の春闘賃上げ率は3.6%を記録し、30年ぶりの水準を記録している。物価高騰で人々の生活が厳しくなるなか、大企業の正社員を中心とした賃金上昇の広がりが世の注目を集めているのである。 それに比べて、地方経済や中小企業の実態というのは、どうしても世の中の議論の中では隠れがちな側面がある。しかし、東京に本社を置く大企業と地方都市に拠点を構える中小企業では、直面している労働市場の局面は明らかに異なった段階にある。 地方の企業が直面している局面は、大都市の企業のように儲かっている利益を従業員に還元するという次元にはもはやない。地方の企業は人手不足が深刻化するなかで、賃金をはじめとする労働条件の抜本的な改善を行わなければ、容赦なく市場から淘汰される圧力にさらされているのである。 個々の労働者とすれば、情報技術が発展した現代において、地元の企業と大都市圏の企業との労働条件の格差は手に取るようにわかるようになっている。そして、情報が可視化された現代において、多くの労働者は豊かな生活を送るためにも、目の前にある就労の選択肢の中から合理的に選択を行っている。 こうしたなか、地域の良さをPRするだけの取り組みでは若者を引き留めることはもはや困難になっている。 安い賃金で長時間働かされるような仕事しか見つからないのであれば、労働者は大都市圏に活躍する場を移すだけだ。企業における労働条件の抜本的な改善なくして若者をその地域に引き留めることは到底不可能である。 過去、デフレーションが進行したバブル経済崩壊以降の局面においては、企業は安い労働力を活用することで生じた余剰を企業の利益として計上することができた。このような過去を振り返ってみれば、経済の局面は過去の局面と明らかに異なる状況にあることを理解することができるのである。 近年の日本経済の構造の変化。これはどのようにして引き起こされているのだろうか。『ほんとうの日本経済』ではさまざまな統計データや企業の事例を追いかけながら、近年の日本経済の構造を解説していく。そして、人口減少経済の行きつく先を考えていくこととしたい。 つづく「人が全然足りない…人口激減ニッポンの「人手不足」が引き起こす「深刻な影響」」では、日本経済がなぜ「こうなって」しまったのか、人材獲得競争が活発化する状況で企業はどうすればいいのか、個人はどう生きるのか、掘り下げていく。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)