日本で「面白いマンガ」が生まれ続けるのは、なぜ?
この記事は『漫画ビジネス』(著・菊池健/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。 【画像】『Dr. スランプ』『ドラゴンボール』鳥山明さんの大ヒット作を見る 日本の週刊漫画雑誌のつくり方の特徴として、漫画家1人、編集者1人を基本とする制作ユニットが挙げられます。これは、大量の作品をつくるうえで、低いコストでたくさんの作品を産みだす体制でもありますが、同時にこの体制ゆえに生まれた副産物があります。それは、作品をつくる人数が少ない分、作り手のエゴがむき出しになった作品が生まれやすいということです。 マンガのつくり方は、大きく分けるとマーケットイン型でつくられるものと、プロダクトアウト型でつくられるものがあります。前者は、流行しているストーリーの型に当てはめてつくられるもので、最近でいうと、いわゆる「異世界転生」や「悪役令嬢」といったジャンルが該当します。 ちなみに、「異世界転生」というのは、主人公が事故などのきっかけを経て、別の世界に行くことで物語が始まるような作品のこと。「悪役令嬢」も「異世界転生」から派生したジャンルですが、女性の主人公が別の世界の物語の悪役として転生する作品のことを指します。 後者のプロダクトアウト型は、漫画家の個人的体験や嗜好(しこう)を掘り下げ、物語として昇華させていくようにつくられるものです。日本の伝統的な漫画雑誌の編集部では、どちらかというとこちらを重視してきました。 例えば、週刊少年ジャンプ編集部によるマンガの指南書では、編集部の役割として「人それぞれにある『自分はこういうものが好き』『こんなことが描きたい』『これなら描ける』という衝動に火をつけること」と述べています。
新たな天才に影響を与える
また、『ONE PIECE』の尾田栄一郎さんは、マンガを描くこととは、「自分のパンツを脱ぐ」ようなことだと述べたとも言われています。エッセイマンガ『ヒット作のツメアカください!』(天望良一/集英社)で取材された際に述べていました。 これは90年代の一部ジャンプ志望者の間でよく言われていたことでもあるそうです。格好つけたり、恥ずかしがったりせず、他の人が見せないような自分の本当の性癖を描く必要があるということです。 たくさんの人の手を介して、川を流れて角の取れた丸く整った石のようなものではなく、荒々しい原石のような、人のエゴがむき出しになった作品ほど、読み手を強くひきつける。そういう思想のもと、漫画家と編集者は、余人を交えず、とことんこだわりを詰め込んできました。 マーケットイン型のほうが手堅くヒットを生み出す傾向にあるのですが、時代を変えるような前例のない作品はプロダクトアウト型から生まれます。さらにいえば、数多くいる漫画家のうち、天才が描いたプロダクトアウト型の作品こそ、メガヒットの原石なのです。 なぜなら、天才の作品というのは、連続的に発展していく凡人の発想を飛び越えて、跳躍した発想のもと、新たな表現を生み出して後の世に続く新たな天才に影響を与え続けていくのです。