<城が語る>狙いもテーマも見えなかったハリルJの敵地ドロー
またクロスの精度の低さ、セットプレーを生かしきれないという課題も克服できないままだった。平均身長で、約4センチほど劣るのだから、セットプレーから、まともにボールを入れても、競り負けるし、落として何かをするにも難しい。セットプレーは、自分達の発信でコントロールできるもの。もっとサインプレーを使うなどの工夫、アイデアが必要だろう。ハリルホジッチ監督の指示に従うだけでなく、自分たちで考え、局面、局面で、状況判断をしていくという柔軟性や主体性があっていいと思う。 ディフェンスについても生真面目すぎた。マンツーマンでのマークを外してはならないと、懸命に人を追いすぎていて、吉田、森重、米倉が重なって、逆にマークを外してしまう危ないシーンも見られた。ボールと人をバランスよく見ながら、ディフェンスについても状況判断力を、もっと高める必要があると思う。 この試合の収穫で言えば、同点ゴールを体に当てて押し込んだ武藤だろう。ワントップで先発させ、途中、岡崎をワントップに入れて2列目に下げたが、サイドのスペースを使い、何度か攻撃の起点を作ったし、瞬間、スイッチできるスピードをアピールした。 後半13分に、深い位置から出した清武の縦パスに武藤が反応。宇佐美がさわってスピードを持って抜け出した武藤がキーパーと1対1になる決定機を演出した。フォローした本田が余裕を持ちすぎてゴールにはつながらなかったが、縦への早いカウンター攻撃こそが、ハリルホジッチ監督が目指している攻撃オプションのひとつ。あの形を試合の中で何度か作っていきたいのだろうが、武藤は、チームの攻撃オプションの幅を広げる存在になりえることを示した。FC東京からブンデスのマインツに移籍。これまでは、どちらかと言えば遠慮がちで、人任せだった武藤に「自分でやらなければ」という強い自己主張を感じるようになった。この試合では、「オレによこせ!」と、ボールを引き出そうとする動きも目立った。ドイツに渡った武藤には、そういう成長の跡が見える。 3年8か月ぶりに代表復帰した柏木も、独特のリズムで攻撃に変化を与えるという持ち味を発揮した。中盤でボールを受けると必ず前を向くし、柏木―長谷部のボランチコンビをもう少し長い時間、見たいと思った。ほとんど中盤で“タメ”というものを作れないゲームで、代表から離れている遠藤がいれば、プレスをかけられてもボールをキープして回すなど、“タメ”を作れたのではないか、などとも考えたのだが……そうなると、ザック、アギーレジャパンから何も変わっていないということになってしまう。 何をしたいのかが見えなかったハリルジャパン。評価するのは大変難しいアウェーのドローゲームだった。 (文責・城彰二/元日本代表FW)