【ディスカウントスーパー戦争】円安&物価高時代の″庶民の味方″ 4強の最新勢力図
三元豚を贅沢に使ったカツ丼がなんと322円。シーフードピザは1ピースがたった133円。両方買っても500円でお釣りがくるのか――。7月下旬のある日、都内のスーパー「オーケー」を初めて訪れたFRIDAY記者はあまりの安さに驚愕した。 【ディスカウントスーパー戦争】円安&物価高時代の″庶民の味方″ 4強の最新勢力図 円安や物価高により食料品の値上げが相次ぐなか、割安で商品を提供する「ディスカウントスーパー」が著しく成長している。 「″偽物″と敬遠されていたプライベートブランド(PB)商品がメーカーの努力により『意外にイケる』と評価されるようになったことも、ディスカウントスーパーが支持されるようになった一因です。オーケーの’23年の売上高は’16年の2倍になっている」(小売・流通アナリストの中井彰人氏) 下の表は、ディスカウントスーパー4強と呼ばれる大手チェーンの特性をグラフ化したものだ。こちらを参照しつつ、4強の強みを分析していこう。 「PB以外も安く買える」と高い支持を得ているのは、売上高6000億円超を誇る「オーケー」(神奈川県)だ。 「オーケーは、有名メーカーが手掛けたナショナルブランド(NB)商品をどこよりも安く売る戦略で拡大してきました。特に缶詰や酒類は、消費者が他店と価格を比較検討しやすい。『NBが安い』と認識されることで、生鮮食品もオーケーで買っていく客が増え、売り上げを押し上げています」(前出・中井氏) たとえばヤマザキの高級食パン『超芳醇』は122円と、相場より100円近く安い。なぜ誰もが知る商品をここまで低価格で売り出せているのか。流通ジャーナリストの石橋忠子氏が打ち明ける。 「扱う商品を通常のスーパーの約6割に絞り込んでいることが要因の一つです。売れ筋を中心に、単品ごとにメーカーとシビアな交渉をします。メーカーが自社の2番手、3番手商品とセットで売り込んだり、交渉したりすることも認めません。メーカーからすると、″嫌な客″かもしれません。しかし、大量に仕入れをし、実際に半端ではない量を売るため、単品での売り上げが日本一という商品も少なくありません。そのため、安い仕入れ価格が実現できているのです」 固定費を削る努力も惜しまない。現在、オーケーの路面店はほとんどが持ち物件だ。出店時に土地も一緒に購入。家賃を払わずに済むようにしてランニングコストを抑えている。オーケーは容易には撤退せずロングスパンで営業するため、家賃を払い続けるよりも安いという。 「11月には東大阪市に関西1号店を出店すると発表している。オーケーは1店舗当たり年間約40億円を売り上げる強豪のため、関西のスーパーは『顧客を奪われかねない』と戦々恐々としているようです」(前出・中井氏) オーケーより早く’20年に関西に進出。北海道・東北などにも勢力を拡大しているのが「ロピア」(神奈川県)である。前出の石橋氏が同店の特徴を解説する。 「社名の由来は『ロープライスのユートピア』。祖業が精肉店だったこともあり、生鮮食品の扱いに定評がある。ボリューム満点の商品をウリにしていて、肉は大きなパック、刺身はサクでの提供がメインです。これには、包装や加工の手間を省けるというメリットもある。″日本のコストコ″を目指しているだけあり、″量の多いPB商品″を強みにしています」 実際に店舗を訪れると、青果がうずたかく積まれた入り口の売り場を抜けた先に、自社製と書かれた大ボリュームのハムやソーセージが目立つ位置に置かれていた。PBにはプリンなどのスイーツやインスタントコーヒーもあり、ラインナップの幅広さに驚かされる。 キャッシュレスが全盛の昨今、あえて「支払い方法は現金のみ」という戦略をとっているのもロピアならでは。マーケットアドバイザーの天野秀夫氏が狙いを解説する。 「電子決済システムを導入すると、店側は手数料を払わなくてはいけなくなるからです。『レジは利益を生まない』の哲学のもと、レジの台数も絞り、その代わりに売り場を広くしている」 特売日の夕方、レジ前に長蛇の列ができることも珍しくない。だが、国産メロン1玉1111円、国産若鳥モモ肉が2.5㎏で2200円という驚きの値段の魅力ゆえに、客足は絶えない。 「オーケーが仕入れ・値付けを本社で一括して行うのに対し、ロピアは各店舗の売り場ごとに任命される肉、野菜、魚、惣菜、加工食品の5部門のチーフに仕入れと値付けの決裁権が与えられている。そのため、地域性を活かした大胆な値付けができるのです」(前出・石橋氏) 一方でスーパーとしては珍しく、スタッフの正社員比率を高め、人材育成にはコストをかけているのも特徴だ。 「ロピアの精肉は一頭買いが基本。売れる部位は利幅を大きく、売れない部位は安く、そして余った部位は叩き売りと、予想される売れ行きを考え抜いて価格を決定しています。社員を肉の専門家として丁寧に育てているからこそ、実現できる戦略です」(前出・中井氏) M&A(合併・買収)にも積極的で、ワイドショーやニュース番組などの中継でもおなじみの「スーパーアキダイ」も現在はロピアの傘下にある。 ◆最新技術が「後押し」 神戸物産(兵庫県)が運営する「業務スーパー」もM&Aに積極的だが、店舗ではなく、PBを生産するための食品工場を買収しているのが同店の特徴だ。 「神戸物産は全国に25ヵ所ある自社工場で、業務スーパーのPB商品を生産しています。イオンやイトーヨーカドーなどの巨大チェーンが進出してくると、もともと地域にあった中小スーパーが競争に負けてしまう。すると、そこに商品を卸していた食品工場も経営が悪化します。こうして危機に陥った工場を買収し、業務スーパーは勢力を拡大しているのです。同店は小売りチェーンだけではなく、総合食品メーカーとしての顔も併せ持っています」(前出・天野氏) 売れ筋商品は1Lの容器に入ったドレッシングや、大袋に入った500gの冷凍野菜だ。大容量が人気なのはロピアと一緒だが、ターゲットとなる客層はやや異なる。前出の石橋氏が明かす。 「ロピアは保存の難しい生鮮食品がメインのため、食べ盛りの子供がいる家庭や大家族に人気です。業務スーパーは保存がしやすく、下処理もされている冷凍野菜がメイン。洗って切って茹でて、といった手間を避けたい高齢の単身世帯から大きな支持を得ています」 東京への出店こそゼロだが、福岡発祥で西日本の王者に君臨するのは「トライアル」だ。「武器は徹底したデジタル化」と明かすのは、前出の天野氏である。 「重要拠点の『スマートストア』という店舗では、飲料売り場や惣菜売り場に『AIカメラ』が設置されています。飲料売り場のカメラはレジと連動したPOSデータとは違い、″客がカゴに入れたが、会計前に戻した商品″のデータも手に入る。より細やかな売り場の割り当てを可能にしています。惣菜売り場のカメラは販売状況を確認し、値下げのタイミングと値段をAIが判断する。その情報は『電子値札』に自動で反映されるため、店員がいちいち値札シールを張る作業もなくしてくれる。人件費はAI化の前に比べ、2割カットできたと聞きます。東京出店も秒読みではないか」 ここ最近は「生鮮食品の質が劇的に上がった」と言われるように、品質向上にも努めている。前出の石橋氏が言う。 「トライアルはコスト削減のため、早くから生鮮食品の多くをセンターで加工していました。そのため店舗で加工するより鮮度の悪いものがありましたが、最近は温度管理の徹底や真空パックの活用などの努力をしており、他店と遜色ない鮮度を実現できるようになった」 全社に共通するのは「良い品を少しでも安く」という心意気だ。庶民を救うべく「最安」を巡る覇権争いが、全国で激化していく。 『FRIDAY』2024年8月16日号より
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