【宝塚記念】雨とともに降臨!遅れてきたニューヒーロー・ブローザホーンがGI初制覇!
第65回宝塚記念回顧
レース中に突如として降り出した雨を見て、ブローザホーンは何を思っただろうか。 思えば、彼の足取りはゆったりとしたものだった。2歳11月にデビューするもなかなか勝ち星に恵まれず、ようやく勝利したのは夏の函館で迎えた9戦目。 【予想配信】今年は18年ぶりの京都開催!春のグランプリ「宝塚記念」をガチ予想!絶好調の神馬券師・キャプテン渡辺の自腹で目指せ100万円! 同世代のスターホース、ドウデュースがダービーを制してからおよそ1ヵ月後のことだった。 3歳の暮れに2勝目を挙げると、4歳の春にはポンポンと2連勝を果たしてオープン入り。 重賞初挑戦となった函館記念では3着に入り、続く札幌日経オープンでは2着馬に6馬身差を付ける圧勝をマーク。 ついに本格化の兆しを見せたブローザホーンだったが、京都大賞典では心房細動を発症して競走中止。 静養期間中にイクイノックスは天皇賞(秋)、ジャパンCを快勝し、ドウデュースが有馬記念を制するなど、強い世代のスターとして強烈なインパクトを残していた。 そうした波に乗れないまま5歳となったブローザホーンだったが、ついに目を覚ました。 復帰戦となった日経新春杯は中団から力強く伸びてきて待望の重賞初勝利をマークし、その後は阪神大賞典3着、そして天皇賞(春)2着と長距離戦線でその実力が花開いた。 そんな馬だからこそ、宝塚記念でも活躍が期待されたが…… ファンの注目は同世代のスターホースであるドウデュース、そしてジャスティンパレスに集中。今年に入ってからの充実ぶりが目覚ましいブローザホーンだったが、単勝オッズでは7.5倍の3番人気。 2頭に次ぐ人気を集めたが、ドウデュースが2.3倍、ジャスティンパレスが3.7倍だったことを考えるとやや水を開けられた感があった。 18年ぶりに京都開催となった今年の宝塚記念。 前日に降った雨が残った馬場は重馬場発表で、当日の天気もどんよりとした曇り空。その中で返し馬が行われたが、ファンから大歓声が挙がったのはドウデュースが馬場に姿を現した時。 歴代最多となる23万8367票を集めたスターホースは大歓声の中をさっそうと駆け抜けていった。 そうした歓声が挙がった中、静かに返し馬を終えていたのはブローザホーンだった。 得意としている道悪の馬場をしっかりと踏みしめるかのような返し馬は力強く、この馬場でもへこたれない走りを予感させるにふさわしいものだった。 そして、レースでもそうしたブローザホーンの逞しさを感じさせる結果となった。 スタート直後、確たる逃げ馬がいないというメンバー構成を見越して逃げたのはメンバー最高齢のカラテと牝馬のルージュエヴァイユ。 その他の馬たちもベラジオオペラをはじめ、この馬場を考えて普段よりも少し前寄りのポジショニングを取る馬が多く見られた。 そんな中で後ろからのレースを選択したのが、ドウデュースとブローザホーンだった。 1コーナーを過ぎる辺りから再び雨が強く降り始め、末脚勝負になると分が悪い状況だったが、この2頭に慌てる様子は見られなかった。 1000mの通過タイムは1分1秒0と平均よりもややゆったりとした流れでレースが進み、3コーナーの上り坂を迎えるころに各馬が仕掛けていたが、ここで2頭の明暗が分かれた。 ドウデュースが動かずにじっとしている中、ブローザホーンは外へ進路を取り、ポジションをグングンと押し上げていく。 先に動いたローシャムパークに合わせるように動いて、下り坂を下り、最後の直線へと入っていった。 降りしきる雨に、道悪の馬場。 そのため、各馬ともなるべく外を通ろうとして馬群は横に広がっていく中、最初に先頭に立ったのはベラジオオペラだった。 スローペースの中を先行して流れに乗り、直線早めに動いて押し切ろうとするレース運びは前走の大阪杯とほぼ同じ。自身が最も得意な流れに持ち込んで後続馬を振り切ろうとしたが、そこに襲い掛かってきた馬がいた。 大外から伸びてきた、ブローザホーンだ。 外ラチに最も近い大外の位置から一気に末脚を伸ばしてきたブローザホーンは残り100mを過ぎたころに先頭に立ち、あとは後続を離す一方に。 自慢のスタミナをフルに生かした走りで追いすがる昨年の皐月賞馬ソールオリエンスや後方でもがくドウデュースにジャスティンパレスらを離していき、残り50mの時点では誰が見ても決定的な差を付け、そのままゴールへと飛び込んだ。 遅れてきた強い世代の素質馬の初戴冠はもちろんだが、鞍上の菅原明良にとっても調教師の吉岡辰弥にとってもこれが嬉しいGⅠ初制覇。 レースを終えて引き揚げてくるブローザホーンと菅原明良のコンビをファンたちが「アキラ!アキラ!」とこの日一番の完成となるアキラコールで出迎え、さらに調教師が引き揚げてきた人馬を笑顔で出迎えた。 デビューから順風満帆に行かず、ひとつひとつコツコツと積み重ねるようにステップアップしてきた人馬が掴んだビッグタイトルを関係者。 そして競馬ファン全体で祝福したが、初のGⅠ優勝騎手インタビューを受けた菅原はこんなコメントを残した。 「まだまだ学ばないといけないことは多いし、この子と一緒に成長していきたい」 表情こそ笑顔だったが、そのコメントには現状に満足せず、もっと上を目指したいという思いに満ち溢れていた。 もしかすると遅れてきたニューヒーロー、ブローザホーンと菅原明良がひと夏を越えて迎える秋競馬で大暴れを見せるのかもしれない。 ■文/福嶌弘