中村獅童、母の企画書から実現した『あらしのよるに』 息子2人の初出演に感慨「まさか」
『あらしのよるに』の歌舞伎化のきっかけは獅童の母・小川陽子さん
歌舞伎俳優の中村獅童、尾上菊之助が8日、都内で行われた十二月歌舞伎座第一部『あらしのよるに』の取材会に出席した。 【写真】「めっちゃ似てる」中村獅童が公開した“やんちゃ”な表情の親子2S 『あらしのよるに』の原作はシリーズ合計300万部を超えるベストセラー絵本で、嵐の夜に出会った狼のガブと山羊のメイが友情をはぐくむ物語。獅童が2002年にNHKのEテレ『てれび絵本』で同作の読み聞かせをおこない、ナレーションと全キャラクターの声を担当。05年には映画『あらしのよるに』で主人公の狼・ガブの声優を務めている。 また、獅童の熱い思いから、15年には同作で新作歌舞伎を作り、京都・南座で初演された。16年には歌舞伎座、18年には博多座、そして24年9月に南座と、これまでに4度上演されており、原作の発刊30周年を迎える今回、5度目の再演が決まった。 今回も獅童が「がぶ」を演じ、菊之助は同作初出演で「めい」を演じる(歌舞伎版の役名は平仮名)。今回は、獅童の長男・初代中村陽喜と次男・初代中村夏幹が同作に初出演。夏幹が「幼い頃のがぶ」、陽喜が「幼い頃のめい」を演じる。 『あらしのよるに』の歌舞伎化のきっかけは、13年に亡くなった獅童の母・小川陽子さん。獅童は「テレビ絵本の読み聞かせ番組で全動物の声をやらせていただいた当時、(母と)新春浅草歌舞伎で出ていた『義経千本桜(四の切)』の話になりました。四の切は狐が親狐の鼓を求めるという、歌舞伎の中でのファンタジーなお話で、歌舞伎は人間が狐を演じるので、『あらしのよるに』もすぐに歌舞伎にできるねと言っていました」と当時の会話を懐古。「そうこうするうちに母は亡くなってしまい、15年に京都の南座で(自分が看板の)公演をする時に、京都は母の故郷ですし、母と話していた『あらしのよるに』をやらせていただいたら、という話になりました」と経緯を語った。
作品を通して次男・夏幹へ伝えたい思い「勇気みたいなものにつながってくれたら」
「自分が企画を立ち上げて『あらしのよるに』をやったような気がしていましたが、南座の初演の前日に松竹の方に呼ばれ、『実は02年にお母さんが手書きの企画書を持って、“いつか獅童が自分の責任興行ができるようになったら、やらせてほしい”と言っていました』と教えてくれました」と、陽子さんが企画書持参で歌舞伎化の提案をしていたことを明かした。 「少しは親孝行できるかなと思っていたら、またもや母に助けられたというか」と、母の優しさを思い返し、「そんな思い入れのある作品に、まさか自分の子どもが出演するとは思っていなかった。当時は陽喜ぶも夏幹も生まれていませんから」としみじみ語った。 菊之助は、「亡くなられたお母さまが手書きで企画書を提出されていたと伺った時に、獅童さんの思いの強さを初めて聞かせていただいて、なんとしてもお力になりたい、幅広い世代の方に愛されているこの作品の魅力を届けたいと思いました」と、出演を決めた思いを明かした。 今回獅童は主演のがぶの他、息子たちが演じる幼いがぶとめいの父親役として二役演じる。「作品のテーマとして、『自分は自分らしく、自分を信じて、自分らしく生きていく』という思いがある。弟の夏幹はこういうメッセージ性のある作品に出たことで、彼がこれから生きていく上での、どこか勇気みたいなものにつながってくれたらうれしい」と、夏幹のことを思いながら語った。獅童は2023年11月に、夏幹が生まれながらに両手の小指が欠損していることを公表している。 「(がぶの父親とがぶとの場面は)夏幹との絡みで、『お前はお前らしく生きればいい』と一番大切なことを伝えている場面。演出の藤間勘十郎先生にも、『父親役は獅童がやったらどうですか』と言っていただいて。親が子どもに大切なことを伝えているので、役者として生きていく上でも、大切な言葉が心に残っていてくれたらいいなという思いがあります」と、父親役を引き受けた理由を語った。
ENCOUNT編集部