遊牧民がまつるシベゲ・オボー。周囲を流れる川の両岸は渡り鳥の楽園だ
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚ましい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのでしょうか。 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
内モンゴルのフルンボイル草原で独自の文化を守り続けるブリヤート族。その一人であるスレンジャッブさんを初めて訪ねたのは2015年の夏だった。そして今年2018年の2月と8月にも会いに行った。彼らの一家は以前と変わらず、私を快く迎えてくれた。 スレンジャッブさんの家の真正面。草原のど真ん中に鍋をひっくり返したような小さな丘が見える。シベゲ・オボーである。彼らがこの地に落ち着いてから毎年まつっている聖なるオボーだ。このオボーの周囲をホェ・ゴルという川が蛇行しながら流れる。両岸は湿地で鴨、白鳥、鶴など渡り鳥の楽園になっている。 彼らの大切な夏営地だったが、今はほとんど遊牧ができなくて、定住している。ここはホェ・ゴル国家自然保護区に指定されている。いつか遊牧民の立ち入りが禁止されるという噂も出始めており、そうなると周辺の遊牧民はどうなってしまうのかと心配している。 私は、シベゲ・オボーに登り、その美しい風景を眺めながらスレンジャッブさんからブリヤートのことを聞くのが楽しみだった。(つづく) ※この記事は「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第14回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きる―内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。