ミス・インターナショナル出身の超絶美女ヨム・ジョンア、演技派女優として歩んだ『密輸 1970』までの軌跡
海女、チンピラ、密輸王、税関の駆け引きバトル『密輸 1970』(公開中)。本作は1970年代半ばの韓国の漁村クンチョンを舞台に、衝撃の実話から着想を得て作り上げた予測不能な海洋クライム・アクション。平凡な海女たちは失職の危機を乗り越えるために密輸品を引き上げる仕事を請け負うことになるが、税関の摘発に遭ってしまう。 【写真を見る】ミス・インターナショナル出身の超絶美女、ヨム・ジョンア。『密輸 1970』では田舎の海女に変身! 2023年の第44回青龍映画賞で最優秀作品賞を含む4冠に輝き、同年サマーシーズンの韓国で500万人以上を動員して大ヒットを記録。キム・ヘス、チョ・インソンら豪華俳優陣が集結し、メガホンを握るのは稀代のヒットメーカー、リュ・スンワン監督だ。この夏、スカッとした爽快さと潮風を劇場で感じてみてはいかがだろうか。 ■スタイル抜群の海女、実はミス・インターナショナルで入賞した経歴の持ち主! 『密輸 1970』には、ひときわ手脚が長くて小顔の海女が登場する。海女たちのリーダー役を務めるヨム・ジョンアだ。韓国映画界の女帝キム・スとスタイル抜群の演技派女優ヨム・ジョンアが並ぶと、ただの“平凡”な海女では終わらない空気が漂う。予告からおもしろさが伝わってくる2人のコンビも欠かせない見どころである。 ミス・コリア出身の彼女は1991年に善(準ミス)に選ばれ、ミス・インターナショナルでは3位に入賞した経歴の持ち主。90年代はミス・コリアが芸能界への登竜門とも言われ、華々しくデビューを飾ったヨム・ジョンア。1991年には「われらの天国」で初のドラマ出演を果たす。中学生の頃から夢は役者で、大学生になるとミス・コリアの舞台にも立ってみたいと意欲的に活動を始めたと言う。 その後「モデル」「野望の伝説」「太祖王権」などの人気ドラマに立て続けに出演するもミス・コリアというイメージが強く、俳優ヨム・ジョンアとして認知されるまでは苦労したそうだ。しかし彼女は当時のことを「一度もやめようと思ったことはない」と振り返っていた。 ■ホラー、スリラーからコミカルな演技まで、幅広いジャンルにチャレンジ! 演技力が評価されたのが、ホラー映画『箪笥(たんす)』(03)である。陰のある若い継母役で次第に攻撃性が増す姿は恐ろしくも奇妙であった。この作品で“ホラー演技の強者”とも呼ばれ、演技に自信がついた作品だと語っており、役者としてのキャリアを積み上げていく。詐欺師たちの駆け引きを描くクライム・ムービー『ビッグ・スウィンドル!』(04)では、第25回青龍映画賞で助演女優賞を受賞。また『ラブリー・ライバル』(04)で演じた教師役を通じてコミカルな演技にも挑戦する。独身のイケメン教師をめぐる恋のライバルは教え子の小学生という想定外の設定で、これまでとは違った弾けたキャラクターで演技の幅を見せた。 2006年にはプライベートで結婚、出産と育児のため家庭に専念するためしばらく活動を減らしていた。トーク番組では、自分が母になったことで母親役を気楽に演じられるようになり、役柄にも余裕や豊かさが出てきたと語っている。母となって役者としてもパワーアップして戻ってきたのだ。そして2011年にチソンと主演を務めた「ロイヤルファミリー」は3年ぶりのドラマ出演となった。日本でも映像化された森村誠一のベストセラー小説「人間の証明」が原作の作品で、ヨム・ジョンアが演じたのは、韓国最高のロイヤルファミリーの次男の妻。きらびやかな世界に身を置いているが、一族から無視されて名前さえも呼ばれずに18年間生きてきた。そんな1人の女性が復讐と野望に身を捧げていく激動の役を熱演する。役作りが難しかったと告白していた彼女だったが、隠された過去によって、悪にも善になる表情が視聴者の感情を引き込んでいた。 ■女優としてのスター性が輝いた『完璧な他人』、韓国で大ヒット! ヨム・ジョンアは『明日へ』(14)でも家族の幸せのために立ち上がる母親役で観客の胸を熱くした。スーパーで働く従業員たちが雇用解除の撤回を求めて企業と闘う姿を描いた本作は、2007年に韓国で起きた実話を元に制作された作品だ。彼女が持つ華やかさではなく、母親としての大きな愛情と大切なものを守るために立ち向かう強さを表現する。第51回百想芸術大賞では映画部門で最優秀女優賞を獲得し、第43回百想芸術大賞での『なつかしの庭』(08)以降、映画部門では2度目の受賞となった。 女優としてのスター性を見せつけたのが『完璧な他人』(18)だ。イタリア映画『おとなの事情』(16)のリメイク作品で、引っ越し祝いに集まった男女7人が夫婦愛や友情を確かめ合い、隠し事がないことを証明するために不マートフォンに届く電話やメールを全員の前で公開することになったブラックコメディ。スマホによってじわじわと暴かれる人間の本性はまるでホラーのようでもあり、修羅場化するパーティーから目が離せない展開が観客を引きつけ、529万人を動員するヒット作に。亭主関白で気難しい弁護士の夫を持つ貞淑な専業主婦役で、妙な空気のなかで彼女の表情の揺れに目がいってしまう。地獄の修羅場をさらに盛り上げる役どころを見事に演じ切った。 ■夢を実現し続けているベテラン女優、今後の活躍にも期待! そして代表作とも言える「SKYキャッスル~上流階級の妻たち」。上位0.1%の富裕層しか住めない高級住宅街“SKYキャッスル”でのしれつな受験戦争を描き、本国では社会現象を巻き起こした超話題作として大ヒットを記録。 ヨム・ジョンアが演じたのはショートカットの髪形が印象的なハン・ソジン。大学病院の医師の夫を持ち、誰もが羨むセレブ妻で娘を最難関大学の医学部に合格させるべく、手段を選ばず欲望のままに徹底的にサポートする母親だ。いわゆるお受験ママたちの中心となる人物で最後まで物語をけん引する大役を引き受け、第55回百想芸術大賞のテレビ部門で最優秀女優賞を取る。日本でもリメイクが決定し再び話題となっているので、見たことがない人はもちろんだが、もう一度見返しても楽しめるドラマであることは間違いない。 ヨム・ジョンアという人物に焦点を当てると、幼い頃から歌って踊るのが大好きで役者になってからもミュージカル映画に出たいと口にしていた。それが叶ったのが『人生は、美しい』(22)である。余命宣告を受けた妻に離婚を突きつけられた夫(リュ・スンリョン)。妻の願いである“初恋の人を一緒に捜す”というミッションのために夫婦で最期の旅に出る。この何とも奇妙な物語で韓国の懐メロを自信たっぷりに披露している。1972年生まれで52歳になるヨム・ジョンアはベテラン俳優と呼ばれてもおかしくない。それでもなお「昔も今も俳優の仕事がすごく楽しい」と言いながら夢を実現し続けている役者なのだ。 文/ヨシン