岩手伝統芸能「鬼剣舞」の面作りに3D技術 北上市、職人の後継者不足で取り組み
鬼の面を着けた踊り手が力強く舞う岩手県の「鬼剣舞(おにけんばい)」は、東北を代表する民俗芸能の一つだ。官民ぐるみで伝統継承に力を入れるが、ネックになりそうなのが面作り。高齢化した職人の後継者が不足しているほか、価格が安くないため踊り手に行き渡りにくい実情もある。中心地の北上市はこの状況を打破しようと、3D技術を活用した面作りを進めている。(共同通信=大石祐華) 鬼剣舞は8世紀の念仏踊りがルーツとされる。8人の踊り手が笛や太鼓に合わせて舞い、全国の「風流踊(ふりゅうおどり)」の一つとして国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録された。 踊りに欠かせない面は現在、市に5~6人いる70代が中心の「面師」が手がける。別の仕事を持っている人も多く、1人が1年に作れるのは10個程度。技術習得に数年かかることから、後進育成が喫緊の課題になっている。 この問題に先端技術の面からアプローチしたのが市立鬼の館だ。ベテラン職人が作った面をスキャンし、3D切削加工機でキリの材木から削り出したところ、精巧な鬼面がわずか半日で仕上がったという。
3D制作の大きな特徴はサイズ調整も可能なこと。踊り手の年齢や頭の大きさに合わせ、例えば面師が作った90%の大きさで再現することができるという。 同市の北上翔南高には鬼剣舞部があり、昨年の全国高校総合文化祭で優秀賞に輝いた実績も持つ。ただ活動費では高額な鬼面を部員全員分は買えず、紙の張り子を使う部員もいる。このため鬼の館は、同部に3Dの面をプレゼントすることを考えているという。 今年6月で創設30年になる鬼の館では、3Dプリンターで作った鬼面キーホルダーとピンバッジの作製も進めている。館長の小田島孝(おだしま・たかし)さん(60)は「伝統の鬼剣舞と、工業都市である北上市の技術が融合した。伝統継承の一助になってほしい」と話した。