「吃音の私も教員になる」 夢に向かって学生が模擬授業 広島大で理解深める催し
言葉が滑らかに出にくい吃音(きつおん)がある教員志望の学生による模擬授業が、広島県東広島市の広島大東広島キャンパスであった。人前で話す経験を積んで本人の自信を育み、生徒役の参加者には吃音への理解を深めてもらうイベント「号令に時間がかかる教室」の一環。会場は相手の立場になって待ち、理解しようとする人たちの温かさに包まれた。 【写真】全ての模擬授業を終え、生徒役からの寄せ書きを手にほほ笑む安藤さん 「きょ、教員免許を取りたくて、べ、勉強しています」。先生役の同大教育学部3年安藤結唯さん(21)の自己紹介に、生徒役の市民は静かに耳を傾けた。
割合や症状について説明
安藤さんは丁寧に板書しながら、吃音は約100人に1人の割合で見られることや、言葉の繰り返し▽引き伸ばし▽詰まり―の三つの症状があることを説明。2~5歳ごろに始まるケースが多く、約8割は自然に症状が消えると伝えた。 グループ討論では、友人が吃音をからかわれている場面について議論。参加者は「深く傷つかないうちに、とにかくやめさせよう」「吃音を知るための授業もするべきだ」と意見を交わした。 「自身の吃音に対する思いは人それぞれ。その人に合うサポートを、周りの力を借りながらすることが大切」。安藤さんはそう語り、授業を締めた。吃音がある娘(8)たち家族5人で参加した市内の会社員男性(48)は「学校はさまざまな配慮をしてくれるが、校外では娘が過ごしにくさを感じる場面も多い。こうした活動で理解が広がるといい」と願った。
「夢へ踏み出す一助になりたい」
教室は、自身も吃音がある東京在住の奥村安莉沙さん(32)が昨年12月から各地で催す。「うまく話せないのなら教員は諦めた方がいい」と、教員に言われた大学生との出会いをきっかけに企画した。奥村さんは「皆さんが夢へと踏み出す一助になりたい」と語る。 今回、教室を知った安藤さんが広島での開催を望み、奥村さんと同大が連携して8月に開いた。同大の川合紀宗教授(音声言語病理学)は「さまざまな背景のある子どもの立場に立てる先生が教育現場に増えれば、多様な人々が活躍する社会につながる」と強調する。 3こまの授業で、子どもから大人まで計約30人と向き合った安藤さん。中学の国語教諭を目標に、教員免許の取得を目指している。「熱心に聞いてくれてうれしかった。吃音は個性。私も私の個性を認め、胸を張って歩めそう」と晴れやかな表情で語った。
中国新聞社