センバツ2023 龍谷大平安「根性坂」頂上付近 20年度「中止」33人刻む碑 /京都
◇コロナ禍の涙、継ぎ走る 京都市伏見区にある、龍谷大平安の練習場「ボールパーク」には、伝統校らしく春夏4回の全国優勝や甲子園通算100勝を記念する多くの石碑が並んでいる。そうした輝かしい戦績をたたえる一群から少し離れた場所に2020年、一つの石碑が新たに建立された。碑文には「あの年の君たちへ」とあり、新型コロナウイルス禍でセンバツ、夏の甲子園が中止となった20年度の3年生部員33人の名前が刻まれている。 原田英彦監督はこの年5月、夏の甲子園中止を知った時の心境を「自分が選手だったら『やってられるか』と思って、ぐれてたと思う。選手に何と伝えるか2晩、思い悩んだ」と振り返る。 考え抜いた末に絞り出した言葉が「諦めろ」だった。「どこかで区切りをつけなければ、次に進めなくなる」という、選手に対する精いっぱいの思いやりが込められていた。 目標を失った選手たちのため、龍谷大平安のOBたちが立ち上がった。新旧WBC日本代表の炭谷銀仁朗選手(楽天)や高橋奎二投手(ヤクルト)ら、プロに進んだ選手4人が、部員を慰労するためにTシャツを作って寄贈。さらに、500人を超える原田監督の教え子全体の間で機運が高まり、寄付を募って「原田チルドレン有志一同」として石碑を寄贈した。 原田監督は、選手をはじめ、グラウンドを訪れる人の目につきやすい入り口近くに石碑を設置した。「甲子園に挑戦する機会さえ奪われたのは太平洋戦争以来のこと。野球ができるのは当たり前のことではないことを、忘れないでほしい」 石碑が建つのは、ダッシュなどのきつい練習に使われる急傾斜の「根性坂」の頂上近くでもある。「彼らの無念を思えば、もうひと頑張りできるだろう」。そんな風に、石碑が選手たちの背中を押しているようにも思えた。【矢倉健次】 〔京都版〕