後味悪い結末…阪神岡田監督、異例の“終戦” とても円満退任のようには見えなかった/寺尾で候
<寺尾で候> 日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。 【写真】グラウンドを見つめるコーチ陣をよそに、静かに去る岡田監督 ◇ ◇ ◇ それは異例の“終戦”だった。阪神が敗れた試合後の甲子園球場が、そのうちざわついた。異変に気付いたNPB関係者が思わずもらした。 「これはちょっとまずいよね…」 13日、DeNAとのCSに敗退した甲子園のことだ。これで最後まで優勝争いの激闘を演じ、日本一を目指してきたシーズンの全日程が終了した。 今までのならわしでいうと、チームがグラウンドに整列し、1年間応援をしてくれたスタンドに、あるいは球場に足を運べなかったファンに感謝の意を表して一礼するものだ。 そのセレモニーのすべてが省かれた。勝ち上がったDeNAがレフトスタンドに近づいて頭を下げた。ビジターチームをあえて優先させたのかなと思いながらながめていた。 岡田彰布の退任は決まっていた。「オカダ、オカダ、オカダっ!」。スタンドからコンバットマーチが鳴った。4万2646人のファンが待ち構えた。でもなにもなかった。 ちょうどその頃、一塁ベンチ裏では、岡田が取材陣に囲まれていた。総勢38人。そこにはペンを走らせる記者、急にスマートフォンで会社に連絡をするもの、この様子を録音する関係者らで入り乱れた。 そして、監督も、選手も誰もグラウンドには現れなかった。ファンにとっては最後まで戦い抜いたチームをねぎらう“儀式”のはずだ。すっかり肩すかしを食らったわけだ。 その後、阪神は球団事務所に取材陣を集めて、球団社長・粟井一夫がペーパーを手に会見を開き、試合後のセレモニーがなかったことに対する説明が行われた。 それによると「岡田監督の体調が思わしくない」ということだった。「ファンの皆さんには本当に申し訳ない。球団を代表しておわびしたい」と謝罪の気持ちも示した。 球団トップは「体調の回復が遅れている」「現時点で大病ではない」などと終始した。ドタバタ感は否めないし、歯切れの悪い口調だったが、岡田の体調は思わしくないようだ。 日本一に上り詰めた大功労者の監督がファンに“無言”で去っていく。粟井は「こちらの判断で。たくさんの皆さんがいらっしゃる中で監督に万が一のことがあってはいけない」とまで言及した。 ある記者から「数分前まで監督会見では体調が悪いようには思えなかったが」と問いただされると「監督に出てもらったら困るとか一切ない。それは断言する」とあくまでも体調が芳しくないことを強調した。 ただ、イレギュラーなのはこれにとどまらなかった。本来は後日、シーズンの戦いを振り返る「オーナー報告会」が行われ、今回は同時に監督の「退任会見」が開かれるはずだった。 それがプロ野球界では通常のプログラムになっている。これも取りやめるという。すべて体調面を配慮してのものとしたが、もし回復したとしても行われないという。 そして続けざまに、待ち構えた球団オーナー杉山健博も立ったまま囲み取材に応じた。これがシーズン終了のオーナー報告会の代わりという扱いで、何から何までが異例のまま終わった。 岡田はユニホームを着ての最後になる囲み取材で、チームに対する厳しいコメントを並べた。単なる“ボヤキ”ではなく、まさしく勝ちきれなかったチームに対する偽らざる本音だろう。 いずれにしても、もっとうまく「シャンシャン!」とならなかったものだろうか。なにか後味の悪い結末だった。こちらから見ていて、とても円満退任のようには見えなかった。 プロ野球の監督ほど特殊な職業はない。トップが交代するドラマはいくらでも取材してきた。フロントとの攻防も、だ。監督は負けると存在意義を問われ、常にクビになるリスクがつきまとう。 ただ敗戦は監督だけの責任ではない。粟井が会見で感じさせた自身でその責任を背負う心境は察するに余りあった。かつて岡田招請にも動いただろうから無念のはずだ。 岡田は名将に上り詰めた。そして阪神が「退任」を選んだ決断が正しかったかどうかは、来シーズン後に“答え”が出る。異例ずくめの交代劇になった。(敬称略)【寺尾博和】