若者よ、「傷だらけの天使」で昭和を見よ 全方位ch
近頃、たまに昭和のカラッとした明るさや細やかな人の情け、人々のバイタリティーといったものに触れたくなることがある。そんなとき愛蔵の番組を見る。「傷だらけの天使」というテレビドラマである。 萩原健一の追悼番組として5年前に日本映画専門チャンネルが全26話を放送したとき録画したものだが、もともと昭和49~50年に日本テレビ系で放送され、当時の若者たちの共感を呼んだ。もちろん、私もその一人である。 とにかく、かっこよかった。中でも井上堯之バンドの音楽を背景に、主役のショーケン(萩原)が荒々しく朝食をとるオープニングを初めて見たときの衝撃はすさまじく、コンビーフの缶を見ると、今でも牛乳は瓶で飲みたくなる。 ざっとストーリーをいえば、おんぼろビルの屋上のほったて小屋のようなペントハウスに暮らす主人公の木暮修(こぐれおさむ)(萩原)と乾亨(いぬいあきら)(水谷豊)はカネはなくても自由気まま。仕事は綾部貴子(岸田今日子)が経営する探偵事務所の下っ端調査員なのだが、盗品の宝石を売りさばく組織を暴くために宝石店で狂言強盗をしろとか、財閥令嬢のヌードダンサーとそのヒモを別れさせろとか、毎回、とんでもない指令がやってくる。 彼らは知恵を絞って何とも不思議な人間関係に入り込んでゆき、外からは決してのぞくことのできない愛憎劇を見聞きすることで、人間の温かさや非情さ、優しさや悲しみを知る。 中でも市川森一の脚本で工藤栄一がメガホンを取った最終回はドラマ史に残る名作だ。不正が発覚し、逮捕状が出た貴子は事務所を閉め、日本脱出をはかる。修も彼女からの誘いがくるが、体調を崩した亨のために途中で引き返す。 「寒いよ」。そううめきながら死んでいった亨のために、ドラム缶に沸かした湯に亨の亡きがらを入れてやる修。最後はリヤカーにその遺体を乗せ、修が夢の島を歩くシーンで終わる。 大人たちが作った社会の壁に、自由な若者たちは阻まれてゆく。その徒労感や孤独を、その光景は見事に表現していた。ショーケンたちのギラギラした演技が懐かしいのは、昭和という時代が遠くなったせいかもしれない。 だからこそ令和の若者に見せたいと思う。もっと自由で、はっちゃけてたあの時代のドラマを。(正)
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