「ドライバー不足と聞いてはいたけど…」クルマ社会の公共交通、知られざる“生き残り戦略”
「他の地域で開催されている芸術祭の交通アクセスもかなり調べました。もちろんそれぞれよくできているのですが、やはりもっと多くの方に公共交通だけででも楽しんでいただければと。 私たちが公共交通を本業としている会社ということもありますが、これまでの芸術祭と比べてもかなり充実した公共交通でのネットワークができたと思っています」(川田さん)
「ドライバー不足と聞いてはいたものの、これほどとは…」
しかし、ご存知の通り、いまのご時世はバスの運転手不足が社会問題化している。2024年問題などを引き合いに出すまでもなく、地方どころか都市部の利用の多い路線でも運転手不足から減便になることもあるほどだ。 芸術祭の開催時期である10~11月は、観光シーズンに加えて学校の遠足なども多く、バス事業者にとってはいわば繁忙期。そうした時期に、これだけ多くの臨時バスを走らせるのは容易ではないはずだ。 それに、JR西日本は公共交通が生業といってもそれは鉄道。路線バスにも細かなネットワークを張り巡らせた経験はない。 そこで、中鉄北部バスや備北バスといった路線バス会社をはじめとする岡山県北エリアのバス事業者、また会場となる市町村にも声をかけて協力を仰いだ。2年ほど前から具体的に動きはじめた。まだどのような作品がどこに置かれるかも固まっていない時期から、来場客数などを想定しつつバスの確保や時間調整などを進めてきたのだ。 「基本的には観光地を中心に作品が置かれるという前提があったので、それを元に調整しました。それぞれの自治体さんの意向ももちろんありますし、接続する他のバスや列車との時間調整もある。この時間にこのバスを走らせるんだけど、接続する臨時バスをお願いできないか、といった調整をずっとやってきたんです」(川田さん) そうした調整の中でいちばんのハードルになったのは、やはりドライバー不足だったという。 どのバス事業者も、ギリギリの人員の中で回している。ただでさえギリギリという状況で、臨時バスをプラスして走らせるというのは、簡単なことではない。川田さんも、「ドライバー不足というのは聞いてはいたものの、これほど厳しいのかと改めて実感した」と話す。 実際に臨時バスの運行に協力した事業者のひとつが、津山市を拠点に貸切バスやタクシーを運行している勝田交通だ。Art周遊バスや津山市内の循環バスなどの運行を担っている。 同社は通常、12名ほどの職員で運行を続けており、まさにドライバー不足の最前線に置かれているバス会社のひとつだ。同社の下山八潮さんも、「増やしたいと思ってもなかなか集まりにくい。年齢的に引退する人も出てくるので、今後も厳しくなる」と打ち明ける。