Netflix『さよならのつづき』が今年を締めくくるにふさわしい傑作になったワケ。地上波ドラマにはない魅力とは? 解説
キャラクターの性格をさりげなく伝えるスタイリングの妙
作品を観て、すぐ目についたのが有村架純演じる、さえ子のスタイリングだ。色も小物づかいも着こなしも可愛らしい。加えて、さえ子は常にハイヒールを履いている。 女性出演者がヒールを履いて登場することが、日本の作品では少なくなった。一般女性もヒール靴を購入が、コロナ禍以降、減少傾向にある(2020年高島屋売れ筋調査より)。世間ではヒール靴を履くのは特別なシーンとなり、作品では登場人物の気性を表すときに使われることが増えた。今回、さえ子のハイヒールも後者の理由として、勝ち気な性格を表現するスタイリングに観えた。 こんなシーンがある。 雄介との回想中。突然の雨に降られたさえ子は、雄介に迎えにきてほしいと連絡。ピンヒールを履いて、雨の街中を走り、店の軒先で雨宿り。そこへやってきた雄介は雨具を持っておらず、怒るさえ子。 「ルブタンのピンヒールは、私が頑張って働いている証みたいなもんなの!」 濡れてしまった相棒のピンヒールへ、謝る一幕もあった。 もちろんヒールだけではない。ハイウエストボトムの着こなしや、バッグやアクセサリーの小物類もよく似合っている。この作品のために仕上げたのか、有村架純としてはあまり見かけない、明るいヘアカラーもさえ子のキャラクターを前面に押し出していた。 有村のスタイリングを担当したのは、杉本学子。これまでには『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ、フジテレビ系・2021年)では松たか子。『着飾る恋には理由があって』(TBS 系・2021 年)では川口春奈のスタイリングを担当している。華美ではなく、あくまでも登場人物を中心に組まれるコーディネートの数々は、見逃して欲しくないディテールのひとつだ。
切ないラブストーリーに枯渇している人にはぜひ
『さよならのつづき』を観て、なぜ切なくなってしまうのか。その理由のひとつに登場人物が連鎖するように、少しずつストレスを背負っている。 全ての発端となるのは、雄介の交通事故による即死だ。もし彼が命を落とすことがなければ、幸せだったはずなのに。 さえ子は恋人を失い、冒頭から苦難を一挙に背負う。精神科医らによる調査(「ライフイベント法とストレス度測定」1993年)によると、人間が最も強いストレスを受けるのは「配偶者の死」であるという。気丈そうに振る舞っていても、さえ子の心はどこかくすんでいたかもしれない。そして恋人の心臓を持った異性が現れたけれど、和正には妻がいる。 和正もやっと健康を取り戻すことができたのに、移植前、自分にはなかった行動に戸惑う。本来、ドナーとその家族とは連絡を取ることができないのに、巡り合ってしまった二人。最愛の人を失ったさえ子を放っておくこともできないし、好きになり始めている自分もいる。でも妻を裏切ることもできない。運命はどこまで彼らを翻弄するのか。 その妻、ミキ(中村ゆり)も苦しい。死ぬかもしれなかった夫がやっと自分の元へ戻ってきてくれた。でも夫は違う人格を持っている。その様子を見守ることしかできず、認めることができない。 「(事実を)聞きたくない。カズが(移植相手のことを)知りたい気持ちは分かるけれど、知りたくない」 さえ子の存在に気づき、駅のホームで待ち構えていたミキが口論をするシーンも切なかった。 「不倫のほうがよっぽど良かった!」 この他にも実は、雄介とカフェを共同経営していた健吾(奥野瑛太)も、友人の死だけではない複雑な思いを抱えていた。 自分の状況と思い比べると、ひとつの不幸は滞留することはない。大事な人たちへと事実や、感情が連鎖していく。ただそれは周囲に自分を必要としてくれる存在がいるという、幸せの証でもある。 どうしたら良かったのか。ドラマの世界でありながら、ついたらればをつぶやいてしまう。そんなやりきれなさを『さよならのつづき』は描いている。 【著者プロフィール:小林久乃】 出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。
小林久乃