ミスチルの名盤も生まれた─小林武史が「音楽人生の大きな部分を占めている」と語る経験とは?
音楽プロデューサーの小林武史が、印象に残った海外でのエピソードや、今後旅したい場所について語った。 小林が登場したのは、ゲストに様々な国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは3月23日(土)。
音楽人生に大きな影響を与えた海外レコーディング
小林武史は1959年生まれ、山形県出身。キーボード奏者として音楽活動をスタートし、1980年代から現在まで数多くのアーティストのレコーディング・プロデュースを手掛ける。2003年に非営利組織ap bankを設立し、環境プロジェクトや復興支援活動をおこない、2019年にはサステナブルファーム&パーク「クルックフィールズ」をオープン。自然エネルギーの普及や食の循環を目指す試みなど、さまざまな活動に注力している。 そんな小林が印象に残った場所としてまず挙げたのは、ニューヨークの音楽スタジオだ。 小林:80年代に合理的なデジタルが入り込んできて、合理的なレコーディングをすることから僕は音楽業界で活躍しだしたんですね。だけど、どこかで「何かが違うな」と思っていて。それは60年代から70年代に聴いてきた、僕は初期衝動って言い方をするんだけど、いわゆる「アナログサウンド」なんだってことがだんだんとわかってきたんですね。そこから90年代少し前、レニー・クラヴィッツがデビューしてきて、黒人も白人もソウルもロックも渾然一体としているんだけれどもアナログな“命の手触り”があって、音がめちゃくちゃよかった。 小林は音の秘密を探るべく、ニュージャージー州ホーボーケンにあるウォーターフロントスタジオに出向いた。 小林:スタジオの連中とはMr.Childrenの『深海』という、いまだにミスチルのファンに愛されているアルバムと、YEN TOWN BANDの作品を作ったんですよ。95年、96年ぐらいのとき、その2枚に一気に入り込んで。ニューヨークでやりとりした経験は、僕の音楽人生の大きな部分を占めているんですよね。 葉加瀬:味わいも音色も違うのはわかるんですけど、アナログとデジタルって根本的に何が違うんでしょうね? 小林:最近はアナログのレコードがいいって言われることはみんなわかっていることなんだけど、デジタルでやるときはどうしても(音が)カットされていってしまうことがあるんだよね。レコーディング自体はめちゃくちゃやりにくいんですけれども。特にパンチイン(すでに録音された音を部分的に差し替える録音方法)なんてね(笑)。 葉加瀬:そうだよね(笑)。僕らがデビューした頃ってアシスタントが命がけでパンチインをやっていたもんね。そういう緊張感がスタジオにあるのって今だと考えられないですもん。ピアノも電子ピアノと電気ピアノの違いがあるもんね。 小林:もちろんです。ヘンリー・ハッシュというエンジニア兼プレイヤーと一緒にいろんなミュージシャンを呼んでやっていたんだけど、ノーデジタルですよ。YEN TOWN BANDの場合だったら、僕がボーカルのフェーダーを持ってヘンリーと一緒に上げ下げしました(笑)。エフェクターをかけるときも「ここはテープフェーズをかけるから」と別に落としてテープで貼るんですよ。 葉加瀬:面白い。 小林:今でもYEN TOWN BANDや『深海』を聴くと、そういうことをしないと出てこない“音の気配”があるんですよね。今はアナログのテープレコーダーをキープするのも難しいけれど、デジタルの世界に何かヒントを持ち込めるような気がします。