失ったはずの腕や脚が痛む「幻肢痛」。治療方法は、脳を“だます”こと?
幻肢痛に悩む人の多くが、一人で痛みと闘っている
――猪俣さんが開発されているVRセラピーシステムとは、どういった仕組みなのでしょうか? 猪俣:VRを利用した鏡療法の進化版になります。 赤外線カメラで動く方の肢の動きを撮影し、リアルタイムで動かせる3DCGにします。さらにそれを反転することで、幻肢の3DCGも生成。幻肢が左右対称でない患者さんの場合は、その日の幻肢の状態に合わせ、VR空間内で位置調整ができるようプログラムされています。 患者さんはVRゴーグルを装着し、VR空間に映し出される3Dの幻肢に、自分の頭の中にある幻肢を重ね、「幻肢を動かす」という疑似体験を繰り返していくことで、痛みを緩和するというものです。 どのような訓練が有効かを開発していく内に、僕自身の痛みもほとんどなくなりました。 現在は週に1回、幻肢痛交流会という場をつくって、リハビリを行いつつ、患者さんの「もっとこうしたらいいんじゃない?」という声を積極的に取り入れながら、“参加型”で一緒に開発を行っています。 ――先日、お伺いした幻肢痛交流会では、「3Dプリンターで作る肩」の開発にも取り組まれているとお話しされていました。こちらはどんな目的で作られているのでしょうか? 猪俣:肩から切断した人は、腕も含む義手が必要なのかと思いきや、実際には、「義手は重くてかえって不便だから、それよりも肩だけがほしい」という声が多かったんです。「肩があれば、服も着られるから」、と。 また、人間には、バランスをとるため、見える範囲の中心、重心にいようとする性質があります。周辺視野で両肩を見ていて、その中心に頭の位置を定めているんです。 右肩を切断すると、当たり前ですが自分の視界から右肩が消えるので、無意識に首が左に寄ってしまうんです。 これは最終的に姿勢の歪みも生んでしまいます。肩パッドはこうした悩みを解決してくれます。 今の技術であれば、スマートフォンで体を撮影するだけで、肩の3Dデータは作成できます。ですから、遠方にお住まいでも、オーダーメードが可能なんですよ。 こういった要望があることは、当事者の声を集めないと分からなかったことだと思います。