ハリルは試合勘のない宇佐美をなぜ代表召集したのか?
ただ、決して落胆はしていない。就任後すぐに異能とも言うべき存在を見つけたことは、初采配となった2015年3月のチュニジア代表戦からただ一人、宇佐美を同年に行われた全13試合で起用した軌跡が物語っている。実際、指揮官はこうも続けている。 「ドリブルで相手を抜いていく選手が多くないから、日本代表がいままで取ってきた点のほとんどがパスワークから生まれている。だから私は選手たちにパスのスピードと、裏へ走るプレーを要求している。そのなかでボールを受けて、自分で相手を抜いてゴールまで決められる数少ない選手が宇佐美だ」 宇佐美と同じタイプのFWとして、齋藤学(横浜F・マリノス)がリストアップされている。今シーズンのJ1では圧巻のパフォーマンスを見せているが、ハリルジャパンで初めて起用された昨年11月のオマーン代表戦における内容は、指揮官のなかで宇佐美との差を逆転させるには至らなかったのだろう。 もうひとり、リオデジャネイロ五輪代表の中島翔哉(FC東京)も注目していると明かしたが、今年9月までアジア最終予選が続く状況では試す機会がない。最終的にジョーカーに指名した宇佐美には、ヨーロッパへ帰省していたこの冬に設けた会談の席で思いを伝えたと、記者会見でも明かしている。 「宇佐美の質の高さ、能力を私は信じている。1戦目は難しいかもしれないが、タイとの2戦目ではジョーカーになってくれると思っている」 ハリルホジッチ監督によれば、今回のように連戦を行う場合、2戦目のほうがチーム全体の状態がよくなるという。代表チームにおいてしっかりと負荷をかけたメニューを消化できるためで、低下している宇佐美の試合体力なども、現地入り後の19日から始まる練習である程度補えると判断したのだろう。 おそらくタイは全員が自陣に引いて守備を固め、最終ラインの裏のスペースもなかなか与えてくれない。万が一、膠着状態に陥ったときに必要なのは個の力となる。指揮官の熱いエールを受けた宇佐美は日本時間18日のフライブルク戦をへて、決戦の地アル・アインで約半年ぶりにハリルジャパンに合流する。 (文責・藤江直人/スポーツライター)